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第391回 監査が出会った複式簿記と言うスキル

2012年10月12日更新

掛川市監査委員事務局長 服部 憲成

沢山の複式簿記のテキスト

私が複式簿記を学んできて45年が経ちました。今でも複式簿記の勉強を続けています。それは、監査業務の中で必要だからです。特に、公営企業会計や財政援助団体等監査を実施する上で必要な「スキル」であります。企業会計の財務諸表や各種帳簿内容を見ていくためには欠かすことが出来ません。正確に数字の流れを把握し、説明内容を正確に聴き取っていくためにです。ここで少し脱線し監査の語源の歴史をひもときますと、英語では、Audit又はAuditingといいます。聞いたところでは、オーディオと同じ語源であって、「聴く、聴取すること」から発展された用語であるそうです。それを知ったとき、思いました。そうなんです監査中は、よく質問してよく聴きますね。今何故か納得している自分がそこにいます。
それではこの辺で本題に戻りまして、最近の会計事情を見ますと、多くのパソコンの市販ソフトが流布していますが、複式簿記の技術は、「仕訳に始まり仕訳で終わる」と言われているように、正確に仕訳をする事が大切です。どんな優秀なソフトであってもブラックボックス化になってしまう恐れがあります。複式簿記の取引8要素の結合関係及び仕訳の法則がイメージ出来なければ正確な財務諸表は出来ないと考えています。簿記が初めての人のために解説をしますと、
「借方」に

  1. 資産の増加
  2. 負債の減少
  3. 資本の減少
  4. 費用の発生 です。

「貸方」に

  1. 資産の減少
  2. 負債の増加
  3. 資本の増加
  4. 収益の発生 です。

このように取引要素は借方に4つ、貸方に4つと計8つ存在し、企業活動の取引はこの要素のいずれかの結合で構成されています。この8要素の結合関係は全部で15の組み合わせが考えられます。借方の要素が貸方に行ったり、その逆も絶対におこりません。また、借方、貸方の単独の取引も絶対に起こりません。どんなソフトを使おうとこれらの事をしっかりとイメージして持っていることが大切であります。時折ですね、残高試算表等で借方にしか発生しない費用が貸方に記載されている場合があります。これはデータの入力誤りの訂正であることがあります。アリバイを残すために本来おこりえない仕訳が記帳されています。手作業で記帳していれば取消線を複線で記入すればよいことで、一目で理解が可能ですよね。会計業務(複式簿記)の基本で変わったのは、ソロバンから電卓に道具が変わったくらいで、複式簿記の決算と決算手続きは基本的には変わっていないですね。しかし、決算書作成までの会計処理については、パソコンソフト等が大きな役割を担っている今日であります。

キャビネットに並ぶたくさんの本

公務員として、最後に来て大好きな複式簿記と言うスキルが監査業務に大変役に立ったことをうれしく思っています。会計学があっても簿記学はありません、「簿記論」です。会計学の一部でありますが、もしも複式簿記が存在しなかったならば、高度な会計制度や現在のような株式会社制度は成り立っていなかったのではないでしょうか。経営者は株主に対し信用を勝ち取るために決算の報告をし、利益を株主に還元するために配当をしています。現代の株式会社主流の資本主義経済は複式簿記の影響を大きく受けていると思います。なかなかメジャーになれなかった「簿記」を、嬉しいことにあのドイツの文豪ゲーテは「ウイルヘルム・マイスターの修業時代」の中で、複式簿記こそ人間の精神が産んだ最高の発明品の一つだと讃えています。そして、立派な経営者は誰でも、経営に複式簿記を用いねばならない。あの18世紀のヨーロッパでこんなに複式簿記を評価しているのです。現在も複式簿記は生き続けているのですからあの時の評価は間違っていませんね。複式簿記を学んできた者として大変嬉しく思います。
皆さんもご存じの通り、地方自治体は利益を追求することを目的としていませんので、利益を算定するのに有効な複式簿記の導入の議論が高まってきませんが、現在のように税金を収入源としている自治体は、どこも共通で景気に左右されます。公的な支出は不況時にこそ多く求められます。好況時に剰余金を積み立て、不況時の支出の備えとしたりするような財源を得る資金運用部門が出来て、不況時の公債費が多くならないような財務システムが構築されて、近い将来において、地方自治体にも発生主義会計という複式簿記の精神を導入する動きがあるかもしれません。公会計といいますと、国、地方自治体、公営企業会計、独立行政法人、社団・財団法人等です。しかしながら導入においての課題は会計基準がそれぞれ異なることです。貸借対照表の導入をすることにより財産状態が解りやすくなったり、固定資産台帳を備えることにより公的施設のスクラップビルドの時期の明確化になったり、複式簿記を一般会計に採用し、未収金・未払金の計算をして計上をし、予算・決算財政の見える化が図られれば、市民にとって解りやすいものになると考えたりしています。
最後に監査の判断基準は、地方自治法第1条の2に基づき「住民の福祉の増進・維持を図る」上で良いか悪いかの判断であるべきである。また、今後におきましても、監査委員とその事務局による監査は、内部監査として、ガバナンスの重要な一部を担って行かなければならないと考えています。
最後に、私としては、「上善水如」この言葉をしっかりと心に刻み、今後の人生を過ごしていきたいと思う今日この頃です。

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