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第488回 "Think Globally, Act Locally" 世界に冠たる、地域の農法です

2014年7月11日更新

掛川市環境経済部長 釜下道治

茶文字が浮かぶ粟ヶ岳を背景に茶摘みをする市長と市民ら
市内東山で、世界農業遺産認定後、初の摘み取り(平成26年4月23日)

「世界農業遺産『静岡の茶草場農法』活用フォーラム」が、6月23日に掛川グランドホテルで開かれました。
世界農業遺産は、伝統的な農業・農法によって生物多様性が守られた土地利用や農村の景観、文化などを一体的に維持・保存し、次世代へ継承していくために、国際連合食糧農業機関(FAO)が、世界的に優れた「地域のシステム」として認定するものです。現在、世界13国において31の農業遺産が認定されており、8つが審査待ちとのことですが、国内では、これまでに「トキと共生する佐渡の里山」、「能登の里山里海」、「阿蘇の草原維持と持続的農法」、「国東半島宇佐の農林水産循環」、そして「静岡の茶草場農法」の5箇所が認定されています。
掛川市周辺の市町においては、茶の味や香りを良くするための伝統的農法として、秋から冬にかけ、茶園周辺にある「茶草場」のススキなどの草を刈り、茶園の畝間に敷く作業が行われていますが、この定期的に草を刈り取る作業によって、地面まで太陽の光が届くことになり、大きな植物だけが茂るのではなく、さまざまな植物も生息することが可能となり、豊かな生物多様性を保つことにつながっています。
今回のフォーラムでは、世界農業遺産審査委員長のパルヴィス・クーハフカン氏と国際連合大学の武内和彦上級副学長による、グローバルな視点に立った基調講演とともに、掛川、菊川、島田、牧之原、川根本町の4市1町において、茶草場を通じてそれぞれ取り組まれている、ローカルな実践活動の事例報告が行われました。
基調講演において、パルヴィス氏からは、「世界農業遺産は、未来に向けた遺産だ。茶草場農法では、伝統的農法によりエコロジカルで、良いお茶をつくっている。世界農業遺産として、国家レベル、地域レベルでのサポートの展開や、他の農業遺産との連携が期待できる。生物多様性に富んだ、持続可能な土地利用システムを使って、地域を世界につなぐ、良い作物を提供してほしい」と、高い評価とともに今後に向けての力強いエールをいただきました。
さらに、武内氏は、「日本の農業と里山里地が、高齢化、過疎化、担い手不足などの問題により衰退の危機に直面する中、日本農業のあり方、食と自然を守ること、農村の振興、価値観の転換などを見つめ直すきっかけとなる」、「世界農業遺産は、ユネスコの世界文化遺産とは違い、未来志向の財産なので、ダイナミックな保全・活用が必要であり、生物多様性の保全に貢献する茶草場農法で、茶の付加価値を高める取り組みが大切になる」との意見を述べられました。

お二人の講演からは、私たちの身近において取り組まれてきた茶草場農法の国際的な評価の高さと、将来に向けた持続の重要性、さらに、世界農業遺産認定のインパクトを、さまざまな活用へと高めて行く必要性について教示いただきました。

茶草場農法実践地で生産者から話を聞くパルヴィス氏
茶草場農法実践地を視察するパルヴィス氏
(平成26年6月24日 川根本町)

また、地域の取り組み事例が報告された中で、川根本町「つちや農園」の三代目あとつぎ娘の土屋裕子さんは、「茶草場農法は、川根で多くの農家が当たり前にやってきた『かっぽし』のことだった。いいお茶づくりにつながっている」、「たくさんお茶を飲んでもらうこと、消費を広めることが茶草場農法を守ることになる。飲む人に、このお茶を飲むことが自然や農法を守ることにつながっていると意識してもらうことが大切だ」と、日ごろの生産・販売活動を通じて感じていることを報告されていました。 
世界農業遺産の認定を受けた地域として、農法を持続し、生物多様性を守って次世代へ継承していくためには、農法によって生産されたお茶のファンを拡大すること、そのためには、このお茶を飲むことが環境への社会貢献を果たすことになると認識されるシステムづくりが必要であるとの提言であり、早急に具体化を検討すべきであると思いました。
このフォーラムを通じ、世界農業遺産「静岡の茶草場」は、世界基準のグローバルな非常に価値の高い農法であり、全世界に向けて発信されていること、一方、その実践はごく日常のローカルな取り組みであり、“Think Globally, Act Locally”(世界規模で考え、身近な地域で活動を)の具体事例であったことを改めて知らされました。

 

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