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第497回 リニア中央新幹線と「命の水」

2014年8月22日更新

掛川市水道部長 榛葉孝男

皆さん、水道は蛇口をひねれば「水が出る」と思っていませんか?
掛川市の上水道事業の歴史は、自己水源に乏しく古来から水で大変苦労してきましたが1988年、大井川広域水道事業(暫定)により供給が開始され、市内で使用される水道水(給水人口116,000人、日量4万6,700立方メートル)の約9割を依存し、断水することなく、安心・安全、そして安定した給水を行っております。

この源である一級河川大井川は、南アルプスを起点に急峻な山地を蛇行して168キロメートルを流下し、駿河湾に注いでおります。この地形を利用し発電所の建設が行われ、大井川の本線だけでも田代ダム(1927年)・大井川ダム(1935年)・奥泉ダム(1956年)・井川ダム(1957年)・畑薙第二ダム(1961年)・畑薙第一ダム(1962年)と6ヶ所が建設されました。加えて水を余すことなく有効利用するため、発電所間をトンネルで結び合理的な水利用を行っており、奥泉ダムより川口発電所に至るまでの区間で発電を行った後、放流しております。

このように大井川は、水利用によって本来流れるべき河原に還ることが無くなり、この枯渇に対し1986年、流域3町は河川管理者(国土交通省)、静岡県、ダム管理会社に放流要望書を提出しました。これにより電力会社は返還に合意し、現在は通年で河川維持放流を行っております。
一方、治水においては1947年の通称「七夕豪雨」で甚大な被害をもたらし、抜本的な治水対策が求められました。また、この地域は工場進出や物流の中継拠点として人口が増加し、上水道の需要が増大して、新規の水供給が不可欠となったことから、大井川水系唯一の洪水調節・不特定利水(河川維持放流機能)・上水道供給・農業用水の多目的ダムとして2002年に長島ダムが完成しました。

このダムでは、治水目的として洪水調節を行うと共に、正常な河川流量を維持するため電力会社管理ダムと連携し、放流を行っております。上水道目的としては1977年、大井川下流域の市町で構成する「静岡県大井川広域水道企業団」が設立して川口発電所の放流水を取水し、相賀浄水場より焼津市・藤枝市・島田市・牧之原市・菊川市・御前崎市・掛川市の7市、計画給水人口約600,000人、日量160,700立方メートル、「毎秒2立方メートル」を供給しております。農業目的としては上水道と同様に同地点で取水し、大井川下流や牧之原台地など8市1町へ用水供給しております。加えて2007年、東遠工業用水道企業団の設立に伴い、牧之原市・御前崎市・菊川市・掛川市の東遠4市の管内企業へ工業用水を供給しております。
このように大井川の水利用は細分化され、「一滴の無駄」も無い状況であります。

このような中、2013年10月、JR東海は2027年の開業を目指す、東京と名古屋間の「リニア中央新幹線」計画について、走行ルートや中間駅の位置を公表しました。

静岡県内は、全の区間においてトンネル構造となり、長野県境に位置する3,000メートル級の稜線(南アルプス)の中で、比較的標高が低い南側の大井川の上流部、(二軒小屋ロッジ)付近の地下約400メートル(海抜約1,000メートル)を東西に通過する計画であります。これに伴う環境影響評価書(環境アセスメント)では、トンネル工事に伴い地下水がトンネル内に湧水として排出されることで、湧き水から供給を受ける河川(大井川)流量「毎秒2立方メートル」が減ると予測し、併せて環境保全措置などの対策工法を検討し実施することなどを公表しました。

この「毎秒2立方メートルの減少」は大井川広域水道企業団、7市約600,000人への給水量に匹敵します。このようなことから、静岡県知事はJR東海に対し流量が減少しないよう意見書を提出し、併せて静岡県に「中央新幹線監視連絡会」設置し、監視していくこととなりました。これらにより2014年7月、環境影響評価書に対し、国土交通大臣は大井川は水道用水、農業用水、工業用水及び発電用水等に利用されていることから流量減少は、水利用に重大な影響を及ぼすおそれがあるとして、水系への回避を意見として公表しました。

JR東海は、国土交通大臣の意見を踏まえ、対策を講ずるものと思いますが、大井川は昨年度、渇水で最大で上水道10%、農・工業用水20%の節水対策を行いました。また、過去1994年、1998年、2005年にも深刻な水不足に陥り、住民生活や農・工業に大きな影響が出ております。
特に掛川市は、大井川への上水道の依存度が約9割と非常に高く「命の水」となっていることから、「リニア中央新幹線」の工事や対策など静岡県と共に、注意深く見守って行きたいと思います。

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