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第502回 大井川「最初の一滴」探訪妄想の記

2014年9月19日更新

掛川市環境政策課長 鈴木 久裕

第497回の『リニア中央新幹線と「命の水」』(8月22日付け、榛葉水道部長)に書かれていたように、掛川市は現在、上水道・農業用水・工業用水ともに、大井川の水の恩恵にあずかっています。
上水・農水・工水とも、島田市身成にある川口発電所下の取水口からとりいれられ、上水道は大井川広域水道企業団の大賀浄水場、大井川用水は、神座の水管橋を通って金谷から小笠地方へ‥‥というように、大規模な導水施設を通じて、私たちのところに届けられています。そして、安定的な水の供給のための施設として、長島ダムが川根本町地内に2001年に造られたわけです。

掛川市は大井川の水に頼っています。そしてその水は、水源地の保全と安定供給があってこそです。このことから、同じように大井川の水を利用している菊川、御前崎、牧之原、島田、掛川、焼津、藤枝、吉田町、川根本町の7市2町で大井川長島ダム流域連携協議会を組織し、水源地への感謝と一定の責務を果たすべく、長島ダム周辺の公園部分管理や水源地の環境学習実施等に一定の負担を拠出しています。よその市からはとにかく負担を減らせという声が出されることがありますが、私は、ある程度までは出すべきだと思っています。

山々に囲まれた長島ダムの様子。

長島ダムの右岸斜面にピンク色の芝桜が咲く様子。
長島ダム遠景。
右岸斜面の芝桜は、掛川市民も含めた流域住民が植えたものです。(平成23年5月撮影)

 

さて大井川は、静岡県の最北端にある日本で4番目に高い間ノ岳(あいのだけ)3,189メートルを源頭に駿河湾に注ぐ、全長約168キロメートルの大河川です。長島ダムはずいぶん上流にあるように思われますが、下流から約82キロメートルとのことですから、ちょうど大井川の中間あたりに立地しています。すなわち、まだ上流に80キロメートル以上の流程があるということです。
私はこれまで長島ダムには何度か訪れましたが、その奥の奥の源流の源流は、まだ見たことがありません。このことから、『大井川の恩恵を受けている一人として是非「最初の1滴」の場所を訪れて、その水を飲んでみたい』が、ここ数年の「妄想」となっています。
しかし、一番奥の奥、間ノ岳直下まで川を遡行するとなると、時間的にも体力的にも、容易に行けるものではありません。そこでこの夏はとりあえずの前段として、数多(あまた)あるダム等の中で一番奥にある「東俣堰堤」まで行ってみることとしました。

大井川水系の図。大井川水系周辺のダムを赤色、えん堤を緑色の台形、発電所を黄色の長方形、サイレンを黒色のリボンの形で示した図。

(画像をクリックすると、大きな画像が表示されます。)

図は、中部電力が発行している大井川水系のダムや堰堤の図の一部を切り取ったものです。大井川には、本流支流にこんなにも多くのダムや取水堰堤が築かれています(ちなみに、ダムとは堤高15メートル以上の堰堤をいうそうで、塩郷については、私たちは「塩郷ダム」と呼んでいますが、河川法的には「塩郷堰堤」なのだそうです)。大井川本流だけを見ても、下流から塩郷堰堤(ダム)、大井川ダム、長島ダム、奥泉ダム、井川ダム、畑薙第二ダム、畑薙第一ダム、木賊(とくさ)堰堤、田代ダム、東俣堰堤とあります。さらにこの図には出てこない、支流の砂防堰堤は数知れず。利水・治水・治山・防災のためとはいえ、こんなにもコンクリートで分断された川や沢の姿は、痛々しい限りですね。なお、大井川のダムはほとんどが発電目的で、利水や洪水調整などの多目的ダムは長島ダムだけだそうです(長島ダムには発電機能はありません)。

ともあれ、今回の目的地「東俣堰堤」には、川筋では一番上流にある「二軒小屋ロッジ」という宿泊施設を利用し、そこから歩いて行きます。二軒小屋から上流部は、かつて林業や堰堤築造のために相当奥まで林道が開設されましたが、いまは手前の一部を除いて維持管理されておらず、道の荒廃が進んでいます。それでも川通しで行くよりは数段楽だし速いので、ありがたく通行させていただきました。途中3つの橋を渡ります。なかなか廃(ハイ)な感じに満ちています。申し訳ないが、何もできません。おそるおそる渡らせてもらうだけでした。

赤い橋を川から見上げた様子。右側が寸断されている。
1番目の橋を川から見たところ。
少し見にくいですが、橋の右側は道が流失しています。

橋の上に細い木が生えている様子。
2番目の橋。この木が大きくなったら…

木々の奥に廃屋がある様子。
通称「八丁平」というところにあった林業小屋の廃屋。
そっと覗いてみました。まさにハイな感じです。

草木に覆われた赤色の橋の様子。
少し遠くから見た3番目の橋。
橋上に街路樹!?まさか(笑)。

橋のようなところに草が生えている様子。
橋自体は頑丈そうなのだけど…。

下に川が見える崖のような場所の様子。
林道が完全に崩落して跡形もなくなった箇所。
通過にはちょっとしたコツが要ります。

 

林業の栄枯盛衰や当時の杣人たちの暮らしを想像しながら歩くこと数時間、よくぞこんなというところに東俣堰堤はあります。(国土地理院の地図には表されていません)そしてここで取水された水は、地中に掘られた導水路トンネルを通り、西俣堰堤で取水された水と合わされ、下流に造られた発電所でタービンを回し‥‥。水力発電事業は、すごい営みですね。これらの施設を造った人々の大変な苦労・偉大さとともに、電気のありがたみを感じました。普段は何気なくジャカスカ使ってますけれど。

ダムのようなえん堤を上から見た様子。
大井川最上流の取水堤「東俣堰堤」
なお、ここが1級河川大井川の起点ともなっていました。

青色に白い字で一級河川大井川起点 静岡県と書かれた標識

 

この奥の上流部はどうなっているのでしょう。体力のあるうちに、なんとか「最初の一滴」の場所を訪れてみたいものです。ますます妄想が膨らんだ今年の夏でありました。

さてここからは余談です。第497回で水道部長も書いていたように、リニア新幹線は大井川の水に大きな影響を与えるのではという心配がありますが、二軒小屋の付近では、調査含めすでに様々な形で動きが見られました。たまたま2年前に撮った写真があったので、貼っておきます。

緑のフェンスで囲まれた奥で、クレーン車が作業している様子。
東俣でのボーリング調査の様子。
この直下付近をリニア新幹線が通ると思われた。
(平成24年8月撮影)

足場が組まれた近くにクレーン車があり、3人が作業している様子。
場所は蝙蝠岳の登山口付近でした。

大井川の河原で作業するクレーン車を上から見た様子。
工事用坑口が設けられる所までだろうか、
大井川西俣沿いに渓流を切り開いて築造されている作業道。
西俣が痛々しい。(平成24年8月撮影)

ショベルカーが2台、砂利道で作業している様子。

 

南アルプスは、今年の6月11日、ユネスコのエコパークに登録されました。
エコパークとは、こちら。

リニア関連の工事が行われるのは、エコパークの中の「移行地域」(人々が居住し生活を営んでおり、自然環境の保全と調和した持続可能な地域社会の発展のためのモデルとなる取組が行われているところ)となっています。
誰も住んでいない3,000メートル級の山の麓と、SLの止まる千頭の駅付近とが、同じ地域区分となっていたのですね。リニアの関係より、ここら一帯の広大な土地すべてが一企業の所有地であることが主な理由だと想像しますが。

なお、リニア新幹線のルートは昨年の9月18日に発表されています。
当時の中日新聞の記事はこちら。

また、「リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい」という、ブログ(「こういう見方もあったか」と、いろいろ参考になります。)
こちら。

夢のリニア中央新幹線。今年の10月には着工との報道もされています。
個人的には、「大井川や南アルプスのこと、水や生態系のことを思うと、今からでもできることならルート変更してもらいたいなぁ‥‥」てなところです。はい。