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第529回 南アルプスとリニア中央新幹線

2015年3月6日更新

掛川市都市政策課長 林 和範

静岡市北部の南アルプスをリニア中央新幹線が通る計画が発表され、昨年には工事の認可が下りています。この工事により、大井川の流量が毎秒2トンも減少してしまうという話があり、大井川の恩恵を受けている人たちが心配しているところです。

しかしながら、リニア新幹線建設の影響は水問題だけではありません。動物・植物・生態系などへの影響、大量の残土を山中に捨てる問題、景観の破壊など環境に直接与える影響や、日本でもトップクラスといわれる隆起を続ける南アルプスを横断するという問題なども考えられます。また、JRがおこなった環境影響評価に問題があるとの声も聞かれ、漠然とした不安を感じているところでした。

そこで、「百聞は一見にしかず」という言葉があるとおり、標高2,000メートルを超えるところに残土を捨てるという扇沢という場所を、実際にこの目で見てくることにしました。扇沢は、登山基地である二軒小屋から伝付峠を登り、稜線を2キロメートル程北上した場所にあります。伝付峠付近の林道は長い間廃道になっていましたが、4年ほど前にまた整備をするらしいという話を聞いていました。峠へ登ると写真(伝付峠付近の林道)のとおり立派な林道が整備されていました。途中、「造林作業路設置工事」の許可看板があり平成22年9月の許可となっていました。きれいに整備された林道は、リニアの残土捨て場である扇沢で終点となっており、写真(林道終点付近)のとおりその先は古い林道が上の山から崩れ落ちていました。北側から見ると写真(北側からの扇沢)となり左上の白っぽい部分が新しい林道の終点です。扇沢は、その名の通り川下側が扇の要のように狭くなっており、地形図からはその要のところに堰堤を作ると、効率よく残土処分が出来るように見えます。しかし、現地では斜面のあちこちが崩壊していて、安定している地盤とはとても思えませんでした。ここに残土を大量に捨てた場合、大規模な崩壊が起きても不思議ではない、というより、たぶん起こるだろうなと感じました。昨年夏、扇沢における残土処分を回避するという報道がありましたが、結果はまだ示されていません。

 
伝付峠付近の林道の写真
伝付峠付近の林道

 
林道終点付近の写真
林道終点付近

 
北側からの扇沢の写真
北側からの扇沢

今回、扇沢まで歩いてみて、ここに残土を捨てるという発想から、リニア中央新幹線計画の自然に対する考え方や、建設に向けた工事が何年も前から実質的に始まっているのではないかということがわかりました。今後、この事業がどのように進められていくのかわかりませんが、後生のためにも、かけがえのない南アルプスの自然環境が破壊されないことを祈るばかりです。

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