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第556回 絶滅危惧種と環境政策課長・鈴木の、微妙な関係について

2015年8月14日更新

掛川市環境政策課長 鈴木久裕

昨年来の妄想を実行して今回このページでご紹介すべく 、梅雨明けに休暇まで取ったのですが、突然、家庭の事情で行けなくなってしまいました。いま頭の中は、サザンオールスターズ(いや、研ナオコバージョンかな)の『夏をあきらめて』の1フレーズがとめどなく渦巻いている状態です。でもまぁ、基礎体力さえ保持していれば、またいつか挑戦する機会もあることでしょう。
とにかく今は、原稿締め切りが来ましたから、書かねばなりません。ということで苦し紛れに、趣味の一つ、釣りのことを書かせていただきます。
とはいえ、自分が興味ない話、殊に他人の趣味のことを延々と聞かされるほど、苦痛はありませんよね。なるべく短めに終わりますんで、ご勘弁を。
 

さて、釣りをしない方の多くは、「釣りとは、のんびりと池や川の土手や海の防波堤に座って、餌に魚が食いつくのを待つ、ひたすらヒマと気長さが要求される遊び」という印象をお持ちかと思います。しかし実は、”のんびり座ってまったりという釣り”は、趣味として釣りをする人の中では、むしろ少数派と思われます。のんびりしているように見えるフナ釣りだって、実はすごく忙しくて集中力を要求されますしね。これは真剣に釣りをしてみないとなかなかわからない、永遠の誤解かもしれません。

また、一口で釣りと言っても、対象にする魚は、海・川・池、メジャーなものだけでも何十種類もいますし、さらに一種類の魚、例えばアユ釣りでも、「友釣り」、「えさ釣り」、「どぶ釣り(毛針釣り)」、「ころがし釣り」etc.というように、竿も仕掛けも釣り方も異なる釣法が、いくつもあります。このように数多(あまた)ある釣りのうち、私がこのごろ一番はまっているのは、渓流に棲むアマゴヤマメイワナを対象とする、いわゆる渓流釣り。その渓流釣りにも、大きく分けて、えさ釣り、ルアー釣り、西洋式毛針釣り(フライフィッシング)、和式毛針釣り(テンカラ)と、4種類の釣法があるのですが、私は今は、テンカラだけをやっています。テンカラの語源は諸説あって不明ですが、日本の渓流風土に合った古来の釣りであることは間違いありません。

テンカラで使用する虫に見立てた自作の毛針の写真
毛針はもちろん自作。
大きさは変えますが、ワンパターンで1シーズン通します。

 

テンカラの特徴は、まず簡素な仕掛けです。一般的に思い浮かべる釣りの仕掛けは、竿・糸・ウキ・オモリ・針・エサの6要素、あるいはリールを加えた7要素で構成されていますが、テンカラの仕掛けは、竿・糸・毛針の3要素だけで成り立っていて、エサも要りません。この仕掛けのシンプルさは、確立した釣法としては、他に類を見ないのです。実は知られざる"Cool Japan"。このシンプルさと合理性が魅力となって、いま世界中にTenkaraが広がっていると言われています。

テンカラは、釣り方もいたって簡素で(奥は深いよ)、要は竿と糸を操って、魚が居そうな場所(ポイント)に毛針を振り込んでやる、これに尽きます。一つのポイントに数回毛針を振り込み、次から次へと魚が居そうなポイントを探りながら、渓流を遡行していきます。腕が上手くない私は足で稼ぐ、そんな釣りです。

 

魚がかかったら、魚体が弱らないように気を配りながら、慎重に取り込みます。そして手網(たも)に納めたら、なるべく手で触らないよう、魚体の写真だけ撮って、その場ですぐ再放流(キャッチ&リリース)するのです。
「アマゴ君、イワナ君、ありがとう。お互い元気で遠からずまた会おう、これからも僕の釣りにつきあってくれ給え」と、感謝と祈りを込めながら。

なぜ釣った魚を再放流するのかといえば、渓流魚は生息域が限られますし、釣魚を持ち帰ればそれだけ魚が減ってしまうのは明らかです。渓流魚に関しては、昔のように「釣った魚は持ち帰って食べればよい」という生息状況ではなくなっていると思うのです。

ニホンウナギが、日本の環境省のみならず世界の科学者などで組織する国際自然保護連合でも、絶滅危惧種IB類に指定されているのは、多くの方がご存じのことと思います。
実は、イワナ(掛川市内の川には生息しません)のうち、赤石山系などの奥深い渓流に住む在来種のヤマトイワナ (JPG 83.2KB)は、環境省のレッドデータブックでは無指定ですが、静岡県では"絶滅危惧種IB類"(IA類ほどではないが、近い将来における絶滅の危険性が高いとされる種)に指定されています。ですから、県内のヤマト君をkillして持ち帰ろうなんてもってのほか、できることなら意図して釣らないようにしたいものです。私自身は、ヤマト君にはほとんどお目にかかったことがありませんで、実際に大井川筋の渓流で釣れるのは、多くが移入放流されたニッコウイワナ(これもいくつかの県で絶滅危惧種に指定されています。)か、在来種との混血と言われています。

一方、アマゴは、掛川市内の原野谷川上流にも生息しており、またヤマメ同様、養殖も盛んに行われていますが、静岡県では比較的軽度の"要注目種"としての指定となっています。また、ヤマメは、元々県内には生息していませんので、無指定です。
しかし、お隣の神奈川県では、酒匂川水系付近がヤマメとアマゴの自然生息境界に位置することなどから、ヤマトイワナともども"絶滅危惧1A類"(ごく近い将来における絶滅の危険性が極めて高い種)として指定されていたり、静岡県水産技術研究所では、ヤマトイワナ保護のため、県内で釣れたニッコウイワナの持ち帰りをむしろ推奨しているなど、地域によって違いがあり事情が複雑なので、注意が必要です。

山間の渓流、流れる清冽な水の様子
アマゴやイワナの棲む里の渓流。
清冽な水にも癒やされます。

「そんなもんなら、最初から釣らなきゃいいじゃん」
「おまえの趣味って、もろに環境負荷行為じゃね?」
とか言われそうですね。
確かに、そのとおりなんですよ!
それでも、他の釣りじゃなくて、渓流deテンカラがしたいんですよねぇ‥‥。
なんでそんなに釣りをしたいのかって、これが趣味の趣味たるゆえんということでして、はい…。

「でもさぁ、でもさ、それ言うんなら、渓流をズタズタに分断してしまってるダムとか取水堤とか砂防堰堤なんか、どうなのよ。それにオイラ、きちんと法や決まりを守って節度ある釣りしてるし、もうウナギは当分食べないって決めたし、ボソボソ、モニョモニョ‥‥」。

やいやい、だんだんと深みにはまってきてしまいました。
溺れないうちに、この辺で。

 

P.S:掛川市内には、現在の日本テンカラ界では最高の名手の1人と言われ、「テンカラの鬼」として有名な、榊原正巳さんという方が住んでおられます。著書『たったひとつの毛鉤で勝負 -日本のテンカラが今、世界へ』も出しておられますし、私自身、直接教えていただいたこともありますが、鬼技か神業か、ホント凄い方です。

Cool Japanを掛川から世界に広めるテンカラの鬼・榊原さんのホームページはこちら
テンカラの鬼 榊原正巳 テンカラの世界

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