総合トップ記事第631回 オコジョと遊ぶ?

第631回 オコジョと遊ぶ?

2016年11月4日更新

掛川市都市政策課長 林和範

南アルプスは、静岡・長野・山梨の3県にまたがるわが国を代表する山岳で、昭和39年に南アルプス国立公園に指定され、平成26年にはユネスコエコパークに登録されました。しかしながら、国立公園としての面積は、北アルプスのある中部山岳国立公園の5分の1ほどの3万6千ヘクタール弱に過ぎず、大井川源流域が虫食いのように指定から外れています。一方、エコパークのゾーニングについても大井川源流域は、国立公園に指定されていないためか「法律やそれに基づく制度等によって、長期的な保護が担保されていること」が必須条件の「核心地域」になっておらず、ちょっと情けない状況となっています。せめて、標高2千メートルくらいまで「国立公園」の指定、エコパークの「核心地域」に出来ないものかと思うところです。

とはいえ、南アルプスが魅力的な自然環境に恵まれていることは確かであり、初めて登った八紘嶺・七面山から数えると、今日まで40年近くかよっています。この間、少しずつ道がつながり、まず早川尾根から夜叉神峠が、次に主稜線が北の竹宇駒ヶ岳神社から南の池口岳登山口まで、そして白峰南嶺も青薙山登山口までつながりました。ただ、赤石岳と聖岳の間にある大沢岳は、その直下にある百間洞山の家という山小屋に宿泊するために登れず空白となっていました。というより、大沢岳と百間洞山の家との標高差を前にして心がくじけ足が向かなかったのでした。しかし、主要な道がつながると、この空白が妙に気になるようになり、この夏は大沢岳を目指すことにしました。

8月の終わりの山は、7月の「夏だ!、山だ!」という感じとは違い、登山者も風景も何となく落ち着いてきて、なかなかいい雰囲気となっていました。初日は聖平での宿泊ということで、翌日に備え体力を温存しながらの登りとなります。快適な登山道を、ツアー客の団体と距離を保ちながら2時間半程歩いていると、道の右側の穴からオコジョが顔を出していて目が合いました。実際にオコジョを見るのは初めてでしたが、顔だけ出しているオコジョはとても愛嬌がありました。少し様子を見ていると、一度引っ込んだと思うとまた顔を出してきました。残念ながらカメラはザックの中で、いまさら遅いかなと思いつつカメラを取りだしチャンスを待つことにしました。少し待っていると、さきほどの穴とは違う穴から顔を出してきました。慌ててカメラを向けると、さっと引っ込み、また待っていると違った穴から顔を出すという感じでモグラたたき状態ですが、動きが速いのとどこから顔を出すのかわからないのでモグラたたきのようにはいきません。そのうえ見つけてカメラを向けても撮る前に移動してしまうのです。そのうちに、穴から出てきて枝の上でこちらをうかがうよう顔を向けきました。全身を見ると丸い目、顔と手足と胴体のバランス、絶妙な長さの尻尾、今まで見てきたどの動物より愛らしい姿をしてます。こんなオコジョと遊ぶことができた幸せを感じましたが、実態はオコジョに遊ばれていたような気もしました(写真1)。しばらく遊ばれ、もうおしまいかなと思って歩き出すと、驚いたことにオコジョは先回りをして道の真ん中で立ち上がって最後のあいさつ?をしてくれました。後でカメラを確認すると撮り始めから終わりまで約10分(すべてピンぼけ)、その前後を含めると15分くらいの不思議で楽しい時間でした。帰宅してからオコジョの性格を調べると、「どう猛」とありました。かわいい姿から「どう猛」という言葉は合わない気がしますが、物怖じしない性格と考えるなら、オコジョと出会えればこのような体験が出来るかも知れません。もし、オコジョとの出会いを希望するなら、大勢で賑やかに歩かないほうがいいと思います。また、いつでも撮影できるようカメラはすぐに取り出せるようにして下さい。

穴から出てき様子をうかがうオコジョの画像
写真1

翌日は、早朝だけ晴天でやがてガスと雨になり、視界のきかない大沢岳は歩いただけになってしまいましたが、目的だった空白を埋めることは出来ました。夜通し降っていた雨も朝には止み晴れ間も出てきました。赤石岳に登る途中で後を振り返ると、百間平越しに朝日を浴びた双耳峰の大沢岳が輝いていました(写真2)。この日は、ガスがかかったり切れたりの繰り返しでしたが、赤石岳山頂からは一時的に長野県方面の小渋川を見ることが出来ました(写真3)。その川の先には、大鹿歌舞伎で有名な大鹿村の集落があります。大鹿村は、「日本で最も美しい村」連合に加盟している村で、位置関係としては写真2の逆方向になりますが、小渋川の奥に望む赤石岳の眺望は絶景です。もうずいぶん経ちますが、古い小渋橋から見た秋の夕日を浴びてピンク色に染まった新雪の赤石岳の美しさは忘れられません。ただ、この美しい村もリニア中央新幹線の工事が始まると、1日に千数百台もの工事車両が村の中を通行することになるのだそうです。

赤石岳から見える、百間平越しに朝日を浴びた双耳峰の大沢岳の画像
写真2

赤石岳山頂から、長野県方面の小渋川が見えている画像
写真3

 

このページと
関連性の高いページ