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第633回 「内に向く世界」に抱く胸騒ぎ~トランプ大統領誕生等に思う~

2016年11月18日更新

掛川市社会教育課長 栗田一吉

最近の話題から気になったものを、思うがままに書き記してみました。あくまでも一個人のヨタ話的感想として、気楽にお読みください。

1 トランプ大統領誕生!

今、巷で一番の話題と言えば「トランプ大統領誕生」である。TVを見る限り、日本のマスコミでは極力冷静に扱われているようだが、本国アメリカの都市部では、就任報道以降、選挙に敗れたヒラリー氏の支持層等が「トランプは我々の大統領ではない!」として連日デモ行進を繰り広げている。当のトランプ氏は、当初「一部のプロが扇動している!」と言っていたが、その後は、舌鋒も弱まり、アメリカ国民の融和を呼び掛ける言い回しに変わってきた。思うに、来年1月20日の大統領就任式時点になっても、世論が真っ二つのままだったならば、政策展開もままならないのは明らかである。よって、トランプ氏の強気な言動や態度も、今後はどんどん軟化していくのではないだろうか。
その一方で、日本はどうか?日本とアメリカは、安全保障や貿易・経済等あらゆる面で切っても切れない関係にある。だからこそ、トランプ氏の選挙中の「関税を引き上げる」などの発言を受け、輸出業界等はその動向に目を凝らしていることと思う。また、株式市場は、彼の一挙手一投足に敏感に反応するため、株をやっている方は、さぞや気苦労が絶えないことだろう。
そういう背景もあって、日本のマスコミ各社は、トランプなる人物を探ろうと躍起だ。あれだけ、過激な発言を連発してきたトランプ氏なのだから、実際の政治の舵取りをどう行うかは、今や全世界の関心事でもある。私自身も、彼の人となりについては大いに関心があるし、日本の企業等が事前に十分な準備を整えておくことは大切だと思う。その一方で、まだ就任してもいないうちから、いたずらに騒ぎ立てるのもいかがなものかとも思う。
ではトランプ氏が、実際に大統領に就任した際には、どうなっているのだろうか?私は「思ったより普通!」という所に落ち着くのではないかと、結構楽観的な予想を立てている。そうなると、彼は「希代の大ボラふき・大嘘つき」となる訳だが、その反面「従来の発言をバカ正直に実行されたら、それはそれで大変!」という思いもある。いずれにせよ、当分の間は動向を見守るしかない。

2 世論調査って信用できるの?

今回の大統領選の事前のアメリカ国内の世論調査は、「ヒラリーがトランプを数ポイントリード」というものであった。しかし、選挙の顛末が、調査結果とは異なるものとなったのは、皆さんもご存知のとおりである。ある報道では、世論調査が外れた理由を「隠れトランプ支持層なる世論調査で拾いきれなかった水面下の意思が多数あったから」などと、分かったような、分からんような分析をしていた。
でも、「隠れトランプ」って・・・、おそらくそういった支持者の心理は「人前でトランプ氏支持を明言するのははばかられるが、心の中ではそういう指導者の登場を待ち望んでいた」ということなのだろう。自由の国アメリカと言えども、自分の意思を表明するのは難しいことなのか?それとも、下品なイメージのトランプ氏を支持することで、自分自身も下品であるかのように思われるのが恥ずかしいということなのだろうか?思わず「いまさら、隠れキリシタンでもあるまいに」と独り言を言っていた自分がいた。
そもそも世論調査というものは、統計学的に一定数のサンプルを抽出してアンケート等を採れば、その結果は、その母集団全体の傾向を反映したものとなるというものである。世論調査的には、今回のアメリカ大統領選が特別だったという総括のされ方もあるのかもしれないが、今後はその手法等が見直される可能性も無いとは言えない。
そう言えば、日本国内の各種選挙における出口調査だって同じようなものだ。かつて、開票作業に従事していたころ、開票会場に向かう車中のラジオで「掛川市の何々氏、当選確実!」というニュースを聞きながら、これから開票を行う身としては、妙な違和感を覚え、「オレ達は、いったい今から何しに行くんだろう?」と思ったことを思い出した。

3 トランプ氏を揶揄した映画など

先日、ネットで目にしたある記事に、こんな話が出ていた。1989年の映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー2(BTTF2)」で、未来(と言っても実は2015年:1985年+(プラス)30年)に行った主人公マーティーが出会う宿敵ビフが、大金持ちのカジノ王となり、その世界を牛耳る人物として登場する。実は、そのビフこそ、若かりし頃のトランプ氏がモデルなのだそうだ!実にパンチの効いた皮肉だが、ルックスだけなら、自分としては劇画「蒼天の拳」に登場する紅華会というマフィアの幹部「田学芳(でんがくほう)」の方が、もっと似ていると思うのだが・・・。どんな絵柄か詳しくは、各自ググっていただきたい。
ちなみに、余談ではあるが、映画BTTF2については、各種の予言めいたシーンが今年話題となった。例えば、劇中では、シカゴ・カブスがワールドシリーズに優勝したとして取り上げられている。アメリカでは有名な「ヤギの呪い」という逸話を抱えているカブスであるが、今年108年ぶりに、映画の設定からは1年遅れだが、見事優勝したのはご承知のとおりである。

4 韓国はどこへ行く?

デモと言えば、お隣の韓国でも、朴槿恵大統領の退陣を迫るデモが20万人超の規模で行われている。ソウル市中心部を埋め尽くした怒る民衆の映像には、鬼気迫るものを感じずにはいられない。朴大統領とその取り巻きによる一連のスキャンダルは、権力に寄生して美味しい汁を吸う輩の構図である。もし、報道のとおり、占いで政策運営の一部を行っていたとしたら、卑弥呼の時代ならいざ知らず、空恐ろしい話である。
韓国では、若者が立派な大学を卒業しても、サムスン等財閥系一流企業への就職はコネとかが無いと狭き門なのだそうだ。かくいうサムスンも、ギャラクシーノート7の発火・発売中止問題で大きな損失を被っており、今や一時期ほどの勢いは無い。
やはり、どこの国でも就職口が無いというのは大問題である。そこへ持ってきて、一部のズル賢い連中だけが、おいしい思いをしているとなれば、憤懣やるかたない民衆の怒りは高まるばかりだ。ちなみに、その怒りを裏付けたような報道もあった。週末の若者向けの世論調査によると、韓国の若者の大統領支持率が0%だったらしい。それにしても0%というのは・・・、我々から見ればあり得ない数字だが、国民の支持が全く得られない国家指導者の存在意義とは何なのだろうか?
韓国の大統領には不逮捕特権がある。もし辞職すれば即座に逮捕拘留されることだろうから、絶対に任期末までは辞任はしないであろう。就任当初は、日本叩きをベースに支持率を稼いでいた朴槿恵大統領だったが、沸騰する世論を前に、韓国はこの先どこに行くのであろうか?

5 フィリピンのドゥテルテ大統領は、トランプ氏と馬が合う?

過激な指導者は、アメリカだけではない。今年6月にフィリピンの大統領に就任したロドリゴ・ドゥテルテ氏も相当に○○○○な人物だ。「フィリピンのトランプ」とも呼ばれているらしい。貧しい民衆の見方を標榜し、国民から絶大な支持を集めている。
中でも特徴的なのが、麻薬撲滅のためと称して、麻薬の密売人やマフィアを逮捕したその場で射殺するという超法規的殺人指令を出していることだ。8月中旬の演説では「殺したのはたった1,000人だ。」と言い放っているが、当然各国からは「人権無視」として非難殺到である。しかし、当の本人は「フィリピンには300万人の麻薬中毒患者がいる。内政干渉するな!」と対応を変える素振りは微塵も無い。確かに、各国ごとに事情の違いがあることは理解できるが、自分としては・・・絶句!である。
また、先進諸国やオバマ大統領を罵倒し、中国に接近している姿勢も、これまでの誰とも異なる路線である。幸い、日本に対しては友好的な態度をとり続けているが、間に入って仲をとりもつ安倍総理は、たまったものでは無いだろう。
また、トランプ氏との関係も、「敵の敵は味方」だとすれば、2人は馬が合うということになるのだろうか?これについては、さほど遠くないうちに2人が対談する場面は出てくるであろうから、その際は大いに注目してみたい。
自分が感じているアメリカとフィリピンの2人の大統領の特徴は、情報化社会を逆手にとって、敢えて過激な発言を繰り返しているような気がしてならない。要は「炎上商法」なのである。どんなに立派な見解を持っていても、政治家としてそのことを発信できなければ、ただの宝の持ち腐れである。たとえ客寄せパンダであっても「自分の考えを発信さえ出来れば勝ち」という割り切りなのだ!そうして、敢えて過激な発言を繰り返すことで耳目を集め、自分に有利な条件を引き出しながら、自分のペースに持って行くのである。ゆえに、民衆の支持や外貨・投資等を自国に呼び込んでさえしまえば、後はいかようにでも発言や態度を翻すのではないかと自分は予想しているが、この予想が良い意味で裏切られることを期待している。

6 「内に向かう世界」に思う

2016年に入ってからの世界各地の動きを見ていると、グローバル化の大きな潮流の中にあって、反グローバルな動き=(イコール)内に向かう動きが顕著となってきたような気がしてならない。シリアからの難民の流入・受入に伴う混乱、イギリスのEU離脱、欧州各国での極右政党の台頭、韓国の迷走、前述の過激発言の両大統領の就任等々、いずれにも共通しているのは、内に向かう自国至上主義である。これらの動きは、一言で言うならば、「世界平和や世界協調も大事だけれど、我が身の生活が脅かされている状況では、人様のことを考える余裕なんてありません!」ということなのだ。
ここで、ふと自分の頭をよぎるのは、第一次世界大戦後のヒトラー率いるナチスドイツが台頭した当時の映像である。それが前述の内に向かう各種の動きと我が脳裏で重なるのである。「歴史は繰り返す」と言われるが、「過ちを繰り返さないために人類の叡智がある」ならば、世界の指導者達の良心を信じるしかない。自分が抱く一抹の胸騒ぎが、杞憂であることを願うばかりだ。
ここで、自分が好きなアニメのフレーズをまた思い出した。「銀河英雄伝説」の主人公の1人で、自由惑星同盟(銀河帝国に対峙し、民主主義を守る立場の勢力)のヤン・ウェンリーが語った名言である。

  • 「民主主義とは遠回りなもの」
  • 「最悪の民主政治でも、最良の専制政治に優る」
  • 「専制政治の罪とは、人民が政治の失敗を他人のせいにできるという点に尽きる」

というものだが、皆さんはどう思われるだろうか?

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