総合トップ記事第643回 オリンピックによる「文化」が今後の糸口

第643回 オリンピックによる「文化」が今後の糸口

2017年1月13日更新

掛川市文化振興課付参事 山本浩美

少し前になりますが静岡県文化行政連絡会議の研修会で、「2020年オリンピック文化プログラム~ロンドンから静岡へ~」の公演(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 芸術・文化政策センター主席研究員 太下義之氏)や県文化政策課の視察報告が行われましたので、オリンピックと「文化」、またその波及効果などについて紹介します。

1 オリンピックは一般的には「スポーツ」の祭典とみられているが、実は「文化」の祭典でもある。

一般的にはあまり知られてないと思いますが、オリンピック憲章には「スポーツを文化、教育と融合させること」が明記されており、「短くともオリンピック村の開村期間、複数の文化イベントを計画しなければならない」と記されています。
これは近代オリンピックの提唱者クーベルタン男爵の理念にのっとり、オリンピックの開催にあたっては、オリンピリズムの普及を目指すため、スポーツ競技と同時に文化や芸術を通じた国際交流も重要なテーマとしたからだそうです。
そして大会の一部として開催都市をはじめ、世界の芸術文化を扱うアート・フェスティバルやプロジェクトなどが実施(オリンピック「文化プログラム」と呼ぶ。)されており、この「文化プログラム」の実施期間は大会開催年を含む4年間にわたって展開することが開催都市には求められています。
実際、100年以上前から、さまざまな形で文化プログラムが実施されてきました。

各大会と文化プログラムの概要について
年代大会文化プログラムの概要
1896年から1908年第1回アテネ(ギリシャ)から第4回ロンドン(イギリス)万国博覧会の時代
1912年から1948年第5回ストックホルム(スウェーデン)から第14回ロンドン(イギリス)芸術競技の時代
注 メダルも授与
1952年から1988年第15回ヘルシンキ(フィンランド)から第24回ソウル(韓国)芸術展示の時代
1992年から2008年第25回バルセロナ(スペイン)から第29回北京(中国)文化プログラム(文化イベント)の時代
2012年第30回ロンドン(イギリス)新しい文化プログラムの時代

1964年の東京オリンピックでは「日本最高の芸術品を展示する」という方針の下で美術と芸能の分野でさまざまな展覧会や公演が開催され、東京国立博物館では国宝を含む「日本古美術展」が開催され、約400,000人が来場したという記録が残っているそうです。

2 2020年の東京オリンピックは東京だけの話ではなく、史上最大規模の「文化プログラム」が全国で開催される。

2012年に開催されたロンドンオリンピックでは、イギリスを12ブロックに分け各ブロックの主導で文化プログラムが行われ、ロンドン2012フェスティバルという12週間の大規模な国際芸術祭が開催されたそうです。
演劇や音楽、ダンス、美術、文学、映画、ファッションなどあらゆる分野にわたる文化イベントが行われ、総数は約180,000件、参加者数は43,400,000人、総事業費は220億円。
ロンドンだけではなくイギリス全土1,000箇所以上で実施されるという壮大なもので、40,000人以上のアーティストが参加し5,000以上の作品が生まれました。

青空を背景に、緑の大地に羽を広げた人の銅像が立っている様子。
Angel of the North

巨大なゴダイヴァ夫人の人形がパレードしている写真。沿道には観客が大勢いる。
Ladey Godiva

3 「文化プログラム」は既に2016年の夏から始っている。

2016年ブラジルのリオデジャネイロオリンピックでは、日本のメダル数は過去最高となり、水泳、体操、卓球など大変感動を受けたことは記憶に新しいものです。また閉幕式で小池東京都知事がオリンピックフラッグを受け継ぎ、いよいよ2020年に向けて動き出し、同時に文化プログラムも開始されることになります。
オリンピック競技は東京を中心に開催されることになりますが、文化プログラムは東京だけでなく日本全国で開催することとなり、伝統芸能やお祭り、文化財などを世界に発信することができます。このため自分たちのもつ「文化」を再確認することにもなり、新たな観光や地域の活性化につなぐことができることとなります。
そのキックオフ会議として、10月に文化庁は文部科学省とともに「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム」を開催しています。

All Together!と書かれたスポーツ・文化・ワールド・フォーラムのポスターの写真。京都では2016年10月19日(水曜日)から20日(木曜日)、東京では2016年10月20日(木曜日)から22日(土曜日)まで開催。

日本の文化プログラム「文化力プロジェクト」の数値目標は、200,000件のイベント、50,000人のアーティスト、50,000,000人の参加、訪日外国人旅行者数30,000,000人の予定です。
また東京オリンピックを契機に、この「文化力プロジェクト」により、成長を遂げていく平和的文化芸術国家を2020年以降に確立することになります。

4 オリンピックを契機に始まる「文化」が今後の糸口になる。

前回の東京オリンピックは、終戦から19年目に開催されたこともあり、スポーツの祭典であったと同時に、民主化や経済復興を果たした日本を世界にアピールする国家的事業であったと思います。そのため東海道新幹線や高速道路などが整備され、その後日本は高度経済成長を成し遂げ、現在では7割の家庭でトイレにウォシュレットが備わっているような世界で一番、平和で安心安全な国になったと思います。

このことから、次に求めたのは生活の質の向上であり、豊かさとは、ゆとりと生きがいのある精神的に充実した生活になったと思います。

近年、医療技術の進歩とともに平均年齢が延び、老年人口の増加、晩婚化や非婚化にる出生率の低下など、少子高齢・人口減少社会が急速に進んでいます。しかし、その一方で余暇時間が増大し、日常的にスポーツを楽しみ、芸術を鑑賞し、また自ら創作活動に取り組んでいる人もいます。

座ってステンドグラスの体験をする女性と、それを見ている8人の女性の写真。
ステンドグラス体験講座(生涯学習センター)

ステンドグラスの窓の前で、バイオリンやチェロ等で演奏をする5人の女性たちの写真。
ミュージアムミニコンサート(ステンドグラス美術館)

建物の外のテントの下で、座ってバイオリン等を演奏する人たちとその演奏を聴く観客の写真。
ロッシーニ街角コンサート

ホールで合唱の練習をする大勢の人たちの写真。手前にピアノ伴奏者と指揮者が写っている。
シティーコーラス練習(美感ホール)

 

文化芸術は自然との関わりや風土の中で生まれ、育ち、身につけていく立ち振る舞いや、衣食住をはじめとする暮らし、生活様式など、生活に関わる総体であり、理想を実現していくための精神活動やその効果であります。

また文化施設や公演活動による地域イメージの向上効果、住民参加による地域活性化などのほか、心の充実や満足度などの精神的効果を与えます。更に地域社会に存在する様々な問題解決につながり、社会参加の機会を拓くことにもなります。

このように精神的・文化的要求の高まりの中で、文化芸術に伴う活動は今や日常生活の中で、なくてはならないものであり、いろんな意味で「文化」はきっと重要な糸口になると思われます。

建物の前の屋外の舞台で、ダンスをする大勢の子供たちと、観客の写真。
キッズダンス(子育て応援フェスタinシオーネ)

館内で、壁にかかった展示品を見たり、手元の資料を確認している人たちの写真。
美術館展覧会(二の丸美術館)

 

このページと
関連性の高いページ