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第646回 日本版DMOとは?

2017年1月27日更新

掛川市商業観光課付DMO担当参事 鈴木 勉

最近日本版DMOという言葉を耳にする機会が増えました。かく言う私は掛川市のDMO担当として着任しているので、簡単にご説明させていただきます。

平成12年頃までは、「行政」と行政の補助金で運営される「観光協会」と旅行会社・鉄道会社・旅館・ホテルといった「観光事業者」の3者による観光振興が圧倒的でした。
しかし、平成7年以降景気が低迷してくると地域間の競争が激しくなり、3者による観光振興の効果が上がらない状況が続いていました。
そこで国は、平成15年に当時の小泉首相が「観光立国懇談会」を主宰し、訪日外国人を増やすためのビジット・ジャパン事業を開始しましたが、殆ど効果が現れませんでした。

なぜ、効果が現れないのかと言えば、マーケティングが足りない。いや、マネージメントがない、そもそも担当者に責任感がない等の議論が数年間されていました。
国は、平成18年に観光立国推進基本法を成立し、翌19年に観光立国基本計画を閣議決定し、更に平成20年に観光庁を設置して取り組んでいくなかで、観光大国である欧米では「どうも違うやり方をしている」ことが分かってきました。

そもそもDMO(Destination Management/Marketing Organization)とは、海外で生まれた仕組みです。DMOは組織ではなく機能のため、欧米の組織をそのまま日本に持ち込んでも、日本の風土・文化に適応はしないですが、機能(マーケティング、マネージメント)は取り入れることが可能です。そこで日本版DMOという言葉が生まれ全国各地で動き出したのです。

DMOを考える上での基本となる問題意識の整理です。

  1. 従来型観光振興(組織・人材・資金などの推進体制)の現状と課題に対する再認識
  2. 関係者が「観光地域づくり」の目標、進め方に対する一定の合意形成
  3. 「観光地域づくり」を実現するための「あるべき機能」と「機能を果たす中核人材」
  4. 「あるべき機能」を果たす中核人材が活躍する「場」と「権限と責任と評価システム」

この中で一番時間が掛かると思われることは、2.の合意形成です。中東遠地区の5市1町がまとまるためには、それぞれの地域文化を踏まえて、関係者の間で観光による豊かな地域づくりのベクトルを合わせる必要があるからです。これが非常に難しく、下手をすると3年も5年も掛かってしまう可能性がありますが、一つ一つ課題を克服していくよう連携した事業を展開しています。

現在私たちが行っていることは、静岡県西部地区観光協議会の中東遠地区5市1町が連携してDMOの先進地の『南信州観光公社』の視察研修を行ったり、首都圏の旅行会社を訪問し地域のPR活動をしています。
本年のNHK大河ドラマ「おんな城主直虎」の放送を機に連携した誘客施策が、豊かな地域づくりのベクトルを合わせることに繋がれば、大きく前進になると考えるからです。

更に2019年にはラグビーワールドカップがエコパで開催され、翌2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催され、日本人と共に外国人も多く訪れることが予想されます。従って早期に上記1.と2.を進めておき、その時までに3.と4.が出来れば良いと考えています。

実際のDMO組織活動の重要な部分は、如何にして収益を確保するかということです。
そのため、送客先の施設からいただく手数料や協賛金並びに広告収入などがより高額になるよう、施設を取捨選択して活動することになります。
手数料率が低いところや品質が悪い施設には送客されず、特定の施設に送客が偏ることになりますので、実施する組織が行政ではなく法人格に限定している由縁です。

現在、静岡県の動きとしては静岡県観光協会DMOが海外戦略を担い、海外からのインバウンドを行い、地域DMOは国内の誘客を推進する方向で考えられています。
県内で既にDMOが立ち上がっている地域は、1.静岡ツーリズムビューロー、2.美しい伊豆創造センター、3.静岡県中部・志太榛原地域連携DMO、4.浜名湖観光圏整備推進協議会の4箇所です。従って県内でDMOが立ち上がっていないのが、富士山麓と中東遠のみとなっています。

なお、日本版DMO立ち上げの参考になる地域として『せとうちDMO』があります。
2016年4月に瀬戸内7県の行政と民間が中心となり『一般社団法人せとうち観光推進機構』を立ち上げ、主に海外向けのプロモーションを行っています。
同時に瀬戸内地域の金融機関と事業者が中心となり『株式会社瀬戸内コーポレーション』を立ち上げ、観光関連事業者に投資して旅行サービスを提供する受け皿を拡充させています。

この両者がタッグを組み広域連携していますが、ここで重要なことは「行政は公平・平等の原則から脱皮できない構造のため、そもそも違う文化の組織をひとつにまとめるのではなく、それぞれが活動できる仕組みを作り役割分担し連携していくこと」と「金融機関の積極的な投資を10年計画くらいの覚悟を持って行う」ことです。

潤沢な資金があれば、DMOは特定の事業者を支援することが可能になるため、より効果的な観光施策がとれることになります。
この考え方を行政がどこまで覚悟を決めて実行に移せるかが今後の最大課題と考えます。

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