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第660回 「森の都温泉ならここの湯」最終章

2017年5月2日更新

掛川市都市建設部長 小林 隆

平成26年から3年に渡り3回連続でシリーズ「森の都ならここ」を投稿し、ロゴマーク誕生のエピソードをはじめ、温泉掘削の秘話、近隣の温泉施設との比較等をご案内しましたが、最終章では、「ならここの湯」そのものの特徴をお話させていただきます。

シリーズ「森の都ならここ」第1章から第3章

コンクリートの壁に(ならここの湯)と立体文字で表示

広々とした岩づくりの露天風呂の様子。露天風呂左奥側に雨除け程度の屋根がある

 

そもそも温泉とは、地下水を汲み上げることで、この地下水には各地域で大きな違いがある様です。近隣の温泉施設で区分すれば、北側の「ならここの湯」と島田市の「川根温泉」、南側の大東温泉の「シートピア」、つま恋の「森林乃湯」、袋井市の「遠州和の湯」に区分され、温泉(地下水)の区分は、原泉の玄関口である大和田トンネル(山)が境となります。温泉のタイプを専門的に言えば、南側の様に透水性の良い地層中に含まれる「地層水貯留タイプ」と北側の岩石の割れ目に含まれる「割れ目貯留タイプ」に区分されます。「ならここの湯」の地層は、「川根温泉」と同じで、約2,400万年前から6,500万年前の海底に堆積した泥や砂がプレート運動により陸側に運ばれ、日本列島に付加形成された「複合岩体」と言われ、プレート上の泥や砂は付加過程を通じ、脱水、変質、変成して非常に堅く、シマント(四万十)層と言われ、日本で二番目に堅い層の様です。

「ならここの湯」の堅い地層に比べ、南側の「シートピア」、「森林乃湯」の地層は、それほど堅くは無く、「地層水貯留タイプ」と言い、解り易く言えば、温泉水を含んだスポンジの様な地層です。このことから、掘削もさほど難しく無くどこを掘ってもある程度の温泉は汲み上げることが出来ます。温泉の温度も掘削の深さと汲み上げポンプの設置位置によって変わります。温泉の温度は、深ければ深いほどマグマに近づくことから温度が上がり、掘削の深さ100メートルで約2度上昇すると言われています。
従って、地下1,500メートルでは約30度の地熱があることとなり、地表面の温度が15度とすれば45度の温泉となる訳です。しかし、地下1,500メートルにポンプを設置するには、ポンプの性能が優れていることが必要なことから、設置費が高額となります。ちなみに「ならここの湯」では、地下700メートルにポンプが設置されております。設置費用は、アメリカ製のポンプで電気設備費を含めて約3,000万円程掛かっています。

ポンプの話題では、「川根温泉」は大変珍しい温泉で、何と地下約1,150メートル付近から自噴しています。それに加え湧出量も桁違いで毎分2,100リットル、多すぎるのでバルブを設置して毎分116リットルに調整しているそうです。「ならここの湯」は毎分81.4リットルで、高額なポンプで汲み上げていることから考えれば羨ましい限りです。

次に、何故その様に堅い地層から温泉が湧出するのかということですが、非常に堅い岩盤でありながら、地下変動により大小無数の亀裂(割れ目)が生じていて、その亀裂は地表に繋がっていき、地表からの雨水が浸透して、地下深くに閉じ込められているという状況で、この地下水を汲み上げる仕組みとなっています。
このことから、地上から色々な方法により調査し、亀裂の多い場所を探して掘削することになる訳です。しかしこの亀裂は非常に狭いため、目に見える様なものでは無いようです。しかも、地下には大変な圧力(気圧)が掛かっており、深度10メートルで1気圧掛かるということになるので、地下1,500メートル付近では、約150気圧が掛かっている状態です。ここへ、地上から穴を掘って圧力を開放すると、亀裂から地上に向かって温泉水(地下水)が吹き上がると言うメカニズムです。一般的には、地表面にも気圧(1気圧)が掛かっていることから、地下から押し上げる圧力とどこかで均衡がとれ、いったん温泉水が止まります。これを清水位と言い、ならここの湯での清水位は地表から58メートル付近でした。地下58メートルまで温泉水が自噴している訳ですが、地表に近いことから減温されるため、加温に経費が掛かるので、高温の地下からポンプで汲み上げる訳です。ポンプの位置は温度湧出量(亀裂の量)、設置経費、加温経費との関係で決定されます。この様なことからならここの湯では、掘削深度が1,500メートルで、地下700メートル付近にポンプが設置されております。
尚、この温泉水(地下水)には、地殻変動により堆積物に取り込まれた海水が混入しています。この海水は、数千万年間、岩盤の割れ目に封じ込められ、今日まで保存されてきた海水であり、「化石海水」と言われています。

この様に、堅い、堅い岩盤を掘削して湧出する温泉水は、気の遠くなるような長い年月を掛けて今、まさにこの原泉の地に現れています。このならここの湯船に体を浸し、この大自然の営みに想いを馳せる時、私たちは心も体も癒され、きっと元気をもらうことが出来ることでしょう。

岩で囲まれた露天風呂に女性2人が入浴談笑している

結びに、この度この様にシリーズで投稿させていただいたことと合わせて、この話題の原点(源泉)となる温泉掘削の事業に携わることが出来たことへの感謝の思いを胸に「森の都ならここ」編を完了することと致します。長い間お付き合いいただき有り難うございました。

では、皆様いつの日か、「ならここの湯」でお目に掛かれることを楽しみにペンを置きたいと思います。

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