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第673回 竹の丸と緑の精神回廊

2017年7月21日更新

掛川市土木課長 杉山 邦雄

1.はじめに

竹の丸正面入り口

平成21年6月、2年近くに及んだ竹の丸の修復整備が完了し、まちづくりの交流施設として再び開館してから早8年の歳月が流れました。修復整備工事などに携わった担当の一人として、当時を振り返りながら、改めて竹の丸の魅力を少し独善的なお気に入り(my favorite things)の視点で紹介したいと思います。

 

逆川遊歩道とその沿道

また、現在では少しずつ死語になりつつある感の緑の精神回廊(Green Moral
 Gallery)のうち、これも整備工事などを担当し、平成20年度に完成した逆川遊歩道とその沿道の見どころポイントについてもお伝えしたいと思います。ふたつの事業ともスローライフ、スローペース(歩行文化創出)をテーマに、中心市街地の活性化を図るまちづくり事業として行われてきたものです。

 

2.竹の丸

こだわりの技法と意匠

松本家家紋の「外に鐶桜」の鬼瓦

【家 紋】
 大棟鬼瓦や隅鬼瓦に装飾してあるものが松本家家紋の「外に鐶桜」です。鐶(かん)とはたんすなどの引き出しにつける金属性の取っ手をいいますが、それを五つ組み合わせて桜の花に模したものです。竹の丸を象徴する独創的で非常に優れたデザインであると思います。竹の丸を訪れた際には屋根を見上げて、いくつぐらいあるかぜひ数えてみてください。この家紋が表で、裏の家紋が「五鐶に根笹」なのだそうです。

 

亀甲積という種類の石積み土塀

【石 積】
 正門である塀重門西側に昔ながらの情緒あふれる土塀がありますが、その基礎は自然の間知石を使用した石積みで、亀甲積という種類の石積みになっています。石積みの積み方は、一般的な布積、谷積のほか20種類以上あると言われていますが、その中でも亀甲積は和の空間に似合う非常に上品で格調高い石積みで、歴史の重みを感じさせる趣と風情が感じられます。根石、天端石、笠石、隅石など丁寧に細工が施されて見事な造りになっていると思います。敷地北側、西側にも石積みがありますが、正面のこの石積みが他には類のない職人の技が生きる造形物だと思います。

 

一坪程度の小さな四阿

【四 阿】
 四阿は、枯山水の主庭の枯流れを奥に入ったところの元々あった場所に復元したものです。一坪程度の小さな四阿ですが、特徴は屋根にあります。棟の真ん中(頂点)にカメを伏せてあります。当時から設置されていたのが古写真でも確認でき、忠実に復元したものです。由来ははっきりしていないと思いますが、珍しいと思います。どことなくミスマッチなところが庭園の景観にアクセントを与え、風情を際立たせている気がします。四阿と土塀の間にある自然石の山灯籠ともよく馴染んでいると思います。

 

主庭の真ん中に足丸雪見型灯籠がある

【石灯籠】
 竹の丸には修景物として石灯籠があり、春日型灯籠が五基と多いですが、雪見灯籠なども二基あります。主庭の猫足丸雪見型灯籠は、庭園のシンボルのような存在感のある際立った修景物となっています。程よい大きさで庭園を眺めたときの視点になり玉石を敷き詰めた枯流れとよく調和して心が安らぐ気がします。以前、東京池之端の旧岩崎邸庭園(三菱財閥岩崎家)で人の背丈の3倍くらいはあると思われる巨大な雪見灯籠を見たことがありますが、それと比べても、上品で風情があり伝統的な日本庭園によく調和していると思います。

 

内玄関。土間から低くて長い上がり框のある様子

【内玄関と沓脱石】
 竹の丸の玄関は、復元された式台玄関がお客様用の正式なものとなりますが、主屋への出入りは見世、帳場、台所、作業場のところでもできます。見世の北側には、立派な内玄関があり、台所がある土間から室内の畳廊下、仏間につながっています。見世は、解体時の痕跡や低い根太天井などの様子から元々は土間で、家人などはこの見世のところの出入り口からこの土間を通り内玄関から室内に入っていたようです。この内玄関が、非常に風情があって実にいいと思います。埃などに埋もれていたものを修復したもので、見上げると古建築を代表する立派な梁や桁などの屋根の小屋組を眺めることができ、大きな空間の広がりとともに、正面から見ると程よく低くて長い上がり框に格子戸がよく似合っていると思います。ここにある沓脱ぎ石もよく磨かれていて歴史と伝統を感じさせてくれ、他にはない秀逸の職人技だと思います。

 

賑わいと交流

父と暮らせばの演劇チケット

【劇 場】
 竹の丸では、これまでに、様々なまちづくり交流イベントが数多く行われてきました。演奏会、ステージ、展示・展覧会、講座、講演会、カルチャー教室、カフェ… etc などです。その中で、私が一番感動したのは平成24年7月に、ひろまと台所を劇場に仕立てて本格的な演劇が行われたことです。その演劇は、「父と暮らせば(井上ひさし作)」という著名な演目で、出演者の熱演などでとても感激したことを思い出します。規模は小さいですが、竹の丸で本格的な舞台芸術作品が上演されたことはもちろんのこと、それを間近で鑑賞でき、芸術家と観客が互いに創造し、想像し合う本物の「劇場」になったことが、何よりも素晴らしいと思いました。
これからも、竹の丸の風情を活かして、まちの賑わいを創出するような多様で楽しみの尽きない交流イベントなどが続いていってほしいと願っています。そして、イベントの情報発信(ブログなど)が再び活発になることも心から希望します。

 

3.緑の精神回廊

しみじみ廻る逆川遊歩道

緑の精神回廊は、防災と美観の公共空間を兼ね備えた緑あふれる歩道のネットワークです。特に逆川沿いに整備された「逆川遊歩道」は緑の精神回廊の基軸として、防災空間の確保、ふれあいと交流の場、健康とやすらぎの環境づくり、生涯学習実践のための装置といった役割を担っています。ウォーキングトレイルとして整備したこの逆川遊歩道の松尾橋から山麓橋の間を、さわやかな朝一番、ゆっくり散歩してみました。沿道の施設や公園、ビューポイントなどを紹介します。

緑の精神回廊の内容と全体構想図

松尾橋北西のスタート地点。周辺案内図と解説板

松尾橋(0min.)

スタートは松尾橋北西のサイン。
周辺案内地図と解説板が日本語と英語で記載してあります。
英語の解説がイチオシです。

 

掛川西高校前の歩道が続いている

掛川西高前(0min.)

歩道を西へ進みます。
路面は、通常と違うカラー舗装(緑)で、骨材の6割に白い三河産石灰岩を
使用しているのが特徴です。
最近、その白さが目立ってきて、快適な歩行空間を演出しています。

 

城下橋東側のスロープと桁下の立体遊歩道

橋下遊歩道(6min.)

城下橋東側のスロープと桁下の立体遊歩道です。
通行量の多い道路を歩行者や自転車が安全に横断できます。

 

水源橋西側の桜の大木がある通り

休憩スポット(11min.)

水源橋西側の桜の大木、ベンチのあるポケットパークです。

 

逆川橋東側のスロープ、桁下の立体遊歩道

橋下遊歩道(13min.)

逆川橋東側の休憩スポット、スロープ、桁下の立体遊歩道です。
逆川橋を潜り堤防の遊歩道に出るとこの付近は
開放感のある河川空間となっています。

 

倉真川合流部講演入口

倉真川合流部公園(22min.)

陽当たりもよく、休憩にちょうどいい公園です。

 

倉真川右岸堤防を下流方向に向かうと山麓橋が見える

山麓橋(32min.)

倉真川合流部公園から倉真川の左岸堤防を上流方向に進み、
大池橋を渡って倉真川右岸堤防を下流方向に向かうと山麓橋です。
緑色の鋼製の橋桁が付近の景観とマッチしています。

 

逆川遊歩道

栴檀のある休憩スポット(40min.)

山麓橋を渡り、再び逆川遊歩道をお城方面に進みます。
逆川橋西側に記念植樹された栴檀の木とともに休憩スポットがあります。

 

遊具と広場、トイレのある十九首水源地公園

十九首水源地公園(44min.)

遊具と広場、トイレのある公園です。
隣接して水神宮があり、毎年、掛川の水道事業発展を祈り、
先人の功績に感謝をする水道感謝の集いなどが行われています。

 

十九首塚史跡公園階段の上から見た様子

十九首塚史跡公園(47min.)

十九首塚があります。
大河ドラマゆかりの地ということもあり、訪れる人が増えていると思います。

 

松ヶ岡北側からの景色

松ヶ岡(52min.)

将門橋を渡り、城下橋の西側のスロープと桁下の遊歩道を抜けると
右手に大木のある茂みがありますが、ここが松ヶ岡です。
出入り口は南側ですので、北側からは立派な建造物群などを確認できませんが、
現在、松ヶ岡プロジェクトで修復・活用整備の事業が進んでいます。

 

明治橋と瓦橋の間の遊歩道

休憩スポット(57min.)

新知出合橋を渡り、明治橋と瓦橋の間にあります。
お城がよく見える、絶好のビューポイントです。

 

スタート付近の遊歩道

松尾橋(59min.)

スタート付近に戻ってきました。
全区間の道のりは約5.1km(地図上)
歩行時間を測るとちょうど1時間程度になります。
アップダウンもなく、新緑が鮮やかでさわやかなウォーキングができました。

 

これらの他にも、逆川遊歩道周辺の見どころは、秋葉神社掛川遙拝所、芭蕉天神、子育延命地蔵尊、十王堂、円満寺蕗の門、浄行菩薩、清正堂などがあるほか、逆川橋、城下橋下の川面には大きな鯉の姿も見られ、さらには四季折々に桜、百合の花、芙蓉、彼岸花などが咲き乱れ、まさに緑の精神回廊を象徴する遊歩道だと思います。掛川市景観計画にも景観重要公共施設(道路)として指定され、今後の整備・改修に際し、地域景観との調和や良好な景観形成への取り組みが担保されています。

4.おわりに

統計によると平成27年度1年間の竹の丸の入館・利用の総数は22,392人です。前年度に比べて総数が1.6倍に増加していますが、平成27年6月に隣接してステンドグラス美術館が開館したことがプラスに作用して増えているのでしょうか。開館した初年度(H21)の総数にはまだ達していませんが、V字回復のトレンドで、関係者の皆様のご努力がうかがわれます。時々、竹の丸が気になって訪れますが、よく手入れされた庭園やきれいに磨き上げられた主屋、離れの様子や、いろいろな展示や行事などで賑わっている機会に接すると、竹の丸だからこそ味わいがあって、しみじみ良いことだなぁとうれしく思います。いろいろな行事が行われている竹の丸からの情報発信は、掛川の伝統文化そのものだと確信すると同時に、1903年(明治36年)に建築されて100年以上経過した竹の丸がこれからも100年、200年と今の風情を残しつつ生き続けていってほしいと思います。

また、逆川遊歩道は余暇の多様性や健康志向の高まりなどから散歩・散策やウォーキング、ジョギングを楽しむ人が増えてきていると思います。これは、自転車通勤で遊歩道の一部を利用して感じることですが、逆川の水質が年々良くなり透明度も増していることで清涼な水辺空間が体感できるようになったことや、堤防の桜などの高木が成長して自然の緑の潤いが強く感じられるようになったことなど、この河川空間の快適性が非常に向上したからではないかと思います。休憩スポットのベンチで語らう高校生などを目にすると、もっと多くの人にこの空間の良さを知ってもらえたらと感じずにはいられません。逆川遊歩道が、市民やここを訪れる多くの皆さまにとって心安らぐ魅力的な空間になることを心から願っています。

人口減少、少子高齢化などによるまちの衰退を防ぐために必要なことの一つとして、地域に住む人々が自分たちのまちへの無関心・無意識をやめ、少しでも地域に関心を持つことが大事であると多くの識者が語っています。また、これからの世代に対して自分の住んでいる地域に誇りを持つ教えをするということも大切だといいます。

これからも様々な場面で、郷土に関心と愛着を抱きながら、「掛川はいいところです」という一言に真心を込めて発信していきたいと思います。

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