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第683回 建設機械が自ら動く? ~i-Construction とは~

2017年9月8日更新

掛川市都市建設部付参与 良知孝悦

はじめに

皆さんは、建設機械に対してどのようなイメージをお持ちでしょうか。私が子どもの頃は、ショベルカーやダンプカーといった大きくて力のある建設機械がかっこよく見えていました。今でも、働くクルマは子ども向け図鑑の定番ですし、ミニカーの世界でも様々なスケールの建設機械がラインナップされています。
しかし、大人になってしまうと、一般の方は建設機械に対して関心を持つことも少なくなってしまうことと思います。

ところで、そんな建設機械に、近年自動運転に向けた取り組みが進められてきています。
自動運転と言いますと、自家用車の自動運転を想像する方がほとんどだと思います。ちなみに、自動車における「自動運転」は、そのレベルが5段階に分かれており、現在日本国内で販売されている国産車は、レベル1(運転支援)またはレベル2(部分運転自動化)で、いずれも安全運転に関する監視・対応はドライバーとなっています。国土交通省でも『現在実用化されている「自動運転」機能は、運転者が責任を持って安全運転を行うことを前提とした「運転支援技術」であり、運転者に代わって車が自律的に安全運転を行う、完全な自動運転ではありません。』と発表しています(平成29年4月14日 国土交通省)。決して、「ハンドルでリズムを取りながら車内でセッション」をしたり、「大丈夫、クルマが止まってくれるから!」といった考えで運転してはいけませんよ…。

建設機械の進歩

話が脱線してしまったので、建設機械に話を戻します。
建設施工における自動化技術は、製造業における産業ロボット導入による生産性向上に触発され、多くのロボット技術として1980年代に研究・開発が進められました。しかしながら、当時の技術は、建設施工向けの位置特定技術や情報通信技術が未発達で、建設施工に利用できるレベルになかったため、現場の期待する作業速度や精度が実現できないという課題を抱えていました。

実は、自動化技術以前の取り組みとして、建設機械の遠隔操作・無人化施工があります。国内における最も古い事例は、昭和39年に富山県常願寺川の災害において使用された水中ブルドーザーと言われています。そして、遠隔操作・無人化施工が世間に知られることとなったのが、平成3年6月に発生した雲仙普賢岳の大火砕流です。この災害の際、火砕流が到達するかもしれない危険区域(立入禁止区域)内で、土石流の発生源となる堆積土砂の除去作業が至急必要となったため、押土・集土、掘削・積込み、搬出という一連の除石・砂防工事を、無線通信によって遠隔操作された建設機械によって施工する技術が開発されました。

その後は、通信技術の発展、建設機械の制御技術高度化、GPSなど位置特定技術の開発・普及などに伴い、技術研究・開発が進められ、無人化・自動化が実現されてきました。

建設機械の自動運転

これまで「建設機械の自動運転」と言ってきましたが、現在主流となっているのは「掘削」や「盛土」といった土工事作業の一部で、現場内の移動(作業場所を変えるなど)はオペレーターが行っています。ただし、露天掘りの巨大な鉱山などで働いている巨大ダンプ(大手建設機械メーカーのCMで見かけますよね)の中には、ドライバーが乗ることなく現場内を運行しているケースもあります。ただし、これは運行管理を集中制御しているもので、それぞれのダンプが自ら判断して運行しているわけではありません。

さて、「掘削」や「盛土」作業の自動化ですが、大きく分けてMC(マシンコントロール)とMG(マシンガイダンス)の2種類の技術があります。いずれの技術も、まず建設機械に数値化された設計図を記憶させます。その設計図のとおりに掘削や盛土の作業を行うのがMC(マシンコントロール)。MC(マシンコントロール)の場合、掘削など作業の主役は機械。余分に掘ろうとしても、機械は動いてくれません。一方、設計図をディスプレーに表示して、設計図と実際の作業結果との差を示しながら、作業の指示(ガイダンス)をしてくれるのがMG(マシンガイダンス)。こちらは、作業の主役はオペレーターなので、設計図のとおりでなくても動いてくれます。実際の現場においては、ブルドーザーはMC(マシンコントロール)、バックホウはMG(マシンガイダンス)が主流。バックホウの場合、動きが複雑でまだまだ熟練技能者の方が効率的なんだそうです。全くの初心者が操作するなら別ですけどね・・・。(建設機械未経験者である石井国土交通大臣が平成28年にMC(マシンコントロール)のバックホウを試乗したときに「『俺は天才か』と勘違いしたくらい施工の精度が素晴らしかった」と雑誌のインタビューに答えていました。)

建設機械というと、大雑把な動きというイメージをお持ちの方も多いと思いますが、バケットの刃先が1センチメートル単位で制御されているのを見ると、正直びっくりします。

MG(マシンガイダンス)を搭載した、バックホウの外観
MG(マシンガイダンス) バックホウの外観

MC(マシンコントロール)を搭載したブルドーザの外観
MC(マシンコントロール) ブルドーザの外観

MG(マシンガイダンス)を搭載したバックホウの運転席にコントローラーが取付られている
MG(マシンガイダンス) バックホウの運転席

コントローラーに施工ラインが表示されている様子
コントローラーに表示された施工ライン

 

で、MC(マシンコントロール)やMG(マシンガイダンス)のメリットですが、最も大きいのが作業の効率化。例えば土工事を行う場合、これまでは作業の目印となる「丁張」を設置することが必要でした。ところがMC(マシンガイダンス) やMG(マシンガイダンス)の場合、丁張の代わりになるデータが既に建設機械に記憶されていますから丁張が不要になり、この設置手間がなくなります。また、作業の出来上がり具合も建設機械で把握できるので、頻繁に図面と比較する必要もなくなりました(もちろん、出来形の管理はしっかり行います)。

丁張があり、位置誘導補助員がいる工事現場の様子
丁張のある現場「写真出典:KOMATSU ウェブサイトより」

丁張がない工事現場の様子
丁張のない現場「写真出典:KOMATSU ウェブサイトより」

 

このように効率化が図られることで、工期も短くなりますし、建設機械の稼働時間が短くなることで環境への負荷も軽減されます。また、建設機械の周辺で人間が行う作業が減ることで、建設機械と作業員の接触といった現場内事故の可能性も低くなり、現場内の安全性向上も期待されます。

建設機械は自分の場所や姿勢をどうやって知るか

さて、MC(マシンコントロール)やMG(マシンガイダンス)では設計図の情報が建設機械に記憶されていると述べましたが、設計図どおりの作業を行う上で、建設機械の位置や向き、姿勢を把握することは必要不可欠です。これに必要なツールが、衛星を用いた位置情報システムです。カーナビやスマホで使われているGPS(アメリカ)のほか、GLONASS(ロシア)、Galileo(EU) 、準天頂衛星(QZSS主に日本)などがあり、これらを総称して全球測位衛星システムGNSS(Global Navigation Satellite System)と言います。今回お話ししているバックホウやブルドーザーは、この信号を受信するアンテナを2基装着し、バックホウでは本体の位置と方向を、ブルドーザーでは排土板の位置と高さを計測しています。

ところで、カーナビでも感じることがありますが、これら衛星の信号だけではどうしても誤差が発生してしまい、先に述べたようなセンチメートル単位での施工管理を行うことが出来ません。そこで、工事現場付近(ほとんどの場合、現場事務所に設置しています)に、位置情報がわかっている地点にGNSS(Global Navigation Satellite System)受信局を基準局として設置したり、位置情報サービス事業者が通信回線で配信する補正情報を活用するなどして、位置情報の精度を上げています。

測りたい観測点の他に位置のわかっている基準局を設置し、位置情報をリアルタイムに算定し観測点の測位を行う方式
基準局設置の例

位置情報サービス事業者が国土地理院の基準点から求めた補正データ(位相差)を通信回線から受信し測位を行う方式
情報提供サービスを利用した例

 

i-Constructionの取り組み

我が国において生産年齢人口の現象が予想されている中、建設分野において『生産性向上』は避けて通れない課題となっており、この建設現場における一人一人の生産性を向上させ、企業の経営環境を改善し、建設現場に携わる人の賃金の水準向上を図るとともに安全性の確保を推進するため、建設現場にICTの導入が進められています。この取り組みを”i-Construction”と称して、国土交通省や静岡県が積極的に進めているところです。

そして、これまで述べてきた建設機械の自動化は、この”i-Construction”の一部です。i-Constructionには、これまで述べてきたような建設機械の自動化だけでなく、UAV(Unmanned aerial vehicle ドローン)を使った地形測量や現場管理など建設現場の生産性向上のための技術が含まれています。

そして、本年度掛川市でも、i-Constructionによる工事に取り組むこととなりました。現在、受注していただいた建設会社の方々と打ち合わせを進めているところで、詳細がまとまりましたら、掛川市の公式ウェブサイトなどでご報告するとともに、現場見学会なども開催していきたいと考えています。どうぞ、ご期待ください。

おまけ i-Constructionの”i”とは?

一般的には、”ICT”や”Internet of Things”などから来ていると言われていますが、静岡県では、工事に携わる方々の「家族と過ごす時間が増える」、「収入が増える」、「事故が減る」、「書類が減る」ことが「愛」につながるとして、”i”=(イコール)”愛”・・・「愛Construction」とPRしています。

i-Construction KAKEGAWAと表記してあるマーク

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