掛川市学務課長 中山弘一
皆さんは、『天井』を気にしたことありますか。
夜、布団に入り寝転んだ時、触れることもない天井が上に見えますが、現在の住宅は白色系統の綺麗なクロス貼りだったりしますので、何も感じられないかもしれません。
私の生まれ育って今でも住んでいる家は昔ながらの杉板の竿縁(さおぶち)天井があり、幼少の頃はこの天井の木目や雨漏りの痕が、動物、植物や地形に見えたり、だんだん想像逞しくなり妖怪に見えたりすると眠れなくなったこともありました。また、ネズミが天井裏で運動会をやったり、ヘビが棲んでいるとか生態系が形成されてもいました。
この『天井』を事典でみると、「部屋の上部に設けた面。屋根裏や上の階の床下を隠すためや、ちりよけ・保温・防音などのために設けるものであるが、現在では、照明や空調などの取付ける機能も果たしている。」と書かれています。この解説を読んで、天井は建物の骨組みや設備の配線・配管を隠すために存在するようで、何か天井が可哀相に思えてきましたので、天井はクサイモノへのフタではなく、建物の内部空間を構成する重要な役割も持っていること、デザイン面で頑張っていることをすこしでも分かって頂きたく、市内2箇所の住宅の天井を紹介させて頂きます。
まず『松ヶ岡』の天井を見学に行きました。
ほとんどの部屋や廊下の天井は竿縁天井です。写真で見るように天井板は杉材で木目がとても綺麗です。ところで竿縁とはどれかと言いますと、天井板の下にある細長い部材で、天井材が置かれているものです。竿縁の断面は正方形か長方形で、下面両側に面が取られています。また、竿縁は床の間と平行に通っています。
この松ヶ岡で是非見て欲しい天井は、奥座敷に通ずる幅1間(1.8メートル)の廊下の天井です。写真のように蒲鉾型とした特徴のあるもので、とても美しく手の込んだものです。特に、廊下が直角に曲がった部分の天井が非常に美しいです。
とても木目が綺麗な天井板
新座敷の天井は黒光りし柱の影が映り込んでいる
弧も木目が綺麗な蒲鉾形天井
蒲鉾型天井の直角交差部分
次に『竹の丸』の天井を見学に行きました。
当然、竹の丸にも竿縁天井が多くあります。天井板は松ヶ岡同様に木目が大変綺麗ですが、その竿縁の断面に注視すると、先程書いた断面とは違い下面が大きく削られ、六角形や半楕円にデザインされた断面のものを見ることができます。
離れの2階に行けば、様々な天井を見ることが出来ます。座敷の天井板は杉材ではなく桐材(箪笥に使われる)であり、この座敷の水屋の天井は、化粧屋根裏の掛込み天井で茶室仕様の天井となっています。廊下に出て天井板を見れば方形ではなく変わった楔(くさび)形の幅広の杉材が用いられています。また、洋室は4.7メートル×(かける)5.9メートルの広さがありますが天井は船底型に漆喰で折上げられ5枚の幅広の杉板で仕上げています。素晴らしいものです。
六角形の断面の竿縁
半楕円形の断面の竿縁
桐材の天井
水屋の天井
廊下の楔形の天井
洋室の折上天井
ところで、最初に「天井はクサイモノへのフタではなく」などと書きましたが、屋根裏はクサイモノでもなく、天井を張って隠さなくてもいい場所もあります。松ヶ岡も竹の丸も天井が張られてない場所があり屋根裏の小屋組がまる見えのところがあります。写真のように太い丸太の梁(はり)や貫(ぬき)が何層にも重なっているのが見え、その先は闇の部分です。この闇に、何か得体の知れないものが居そうで・・・・。ある建築家が「人間は一方に闇がなければ光を感じることがことが出来ない。私は「天井裏」は家にとって重要な闇の空間の象徴として捉えるべきだと考えている。」と、また「家に暗くてあいまいな部分を意識的に残しておくことがもっと考えられてよい。」と書いています。(『古民家再生術』萩原嘉郎)この闇の空間にも興味を持っていただけたらと思います。
松ヶ岡の屋根裏
竹の丸の屋根裏
天井のことをほんの少しだけ紹介しましたが、興味を持っていただけましたでしょうか。最後には天井がない空間のことも書きましたが、何れにしましても、室内の上部にも目を向けていただき、建物の内部空間を味わってください。色々な発見がありますよ。
終わりに一言。上にばかり気を取られ、つまずいたり他人にぶつかったりしないように注意して見学してください。