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第451回 引き波の力をうまく利用できるか

2013年11月8日更新

掛川市農林課長 鈴木 久裕

前回の結びで、今回は人口減時代について書くなどと大言壮語予告しましたが、藻谷浩介さんの著作『里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く』(角川oneテーマ21)とか、榊原英資さんの『国家の成熟』(新潮新書)とかを読んでいただくほうが断然良いと思いますので、やめます。ごめんなさい。
で、今回は何枚かの地図から、街の移り変わりを見ていただくこととしました。
表示しているのは、国土地理院(戦前は大日本帝国陸地測量部)発行の地図で、いずれも図名『掛川』から、掛川駅周辺を切り取ったものです。『掛川』図版は、5万分1の地図が1899年(明治32年)に、2万5千分1の地図は1919年(大正8年)に、それぞれ初版が刊行され、これまでに5万分1は19版、2万5千分1は10版が刊行されています。今回見ていただくのは、そのうちの9葉です。私の中途半端な収集ゆえ、2万5千分1と5万分1が混在してしまっていますが、お許しください。
なお、市域をくまなく見るには、5万分1の場合は、『掛川』のほか『磐田』『天竜』『家山』『御前崎』が必要。また2万5千分1地図では、『掛川』のほか『森』『山梨』『袋井』『八高山』『下平川』と『千浜』が必要です。

さて、最初の地図は、明治32年(1899年)発行の5万分1です。掛川地域がこうした近代的な地図で表示されたのは、このときが初めてです。『掛川』については、隣接する『磐田』の初版図歴(明治23年測量、同32年発行)等から想像するに、明治23年(1890年)ころにはすでに測量が行われていたのではないかと思われますが、明治28年に修正測量が行われた後の刊行となりました。

明治32年(1899年)発行の掛川地域の地図

少し読図しましょう。東海道線は、地図発行10年前の明治22年(1889年)に全線開通。この年に初代の掛川駅もできたようです。市街地は旧東海道沿いに発達し、駅は田んぼの真ん中でした。掛川町の役場は、地図から見ると、今の中町あたりにあったようです。郡役所があったのは瓦町、旧掛川幼稚園のあたりでしょうか。南郷村、西南郷村、西山口村の役場も示されています。

 

大正8年(1919年)発行の掛川地域の地図
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次の地図は、大正8年(1919年)発行の2万5千分1初版です。2万5千分1の地図は、5万分1と比べて情報量が断然違いますね。「東海道七曲がり」もよくわかります。
お、今の掛川城二の丸御殿の所に学校の記号が見えます。これはおそらく、大正2年(1913年)開校し、今年創立100周年を迎えた、掛川東高校の前身である掛川町立掛川実科高等女学校のことと思われます。
城址の西には、「中学校」の記述。これは旧制中学校で、今の掛川西高校です。
北門交差点から北にまっすぐ延びる道ができました。これはもちろん、現在の"西郷県道"ではなく、東にある旧道です。

 

昭和22年(1947年)に発行された掛川地区の地図
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さて3番目の地図は、それから28年後、敗戦間もない昭和22年(1947年)に発行された2万5千分1です。図歴によれば、この版は昭和14年(1939年)に修正測量が行われていたのですが、戦争のためでしょうか、その8年後の発行となっています。
したがって、昭和18年(1933年)にすでに掛川町に編入合併していた南郷村が、まだそのまま表示されています。もちろん、大正14年(1925年)に掛川町と合併した大池村については、すでに"大池"という地名として表示されています。
そのほか目立つものでは、昭和10年(1935年)に開業した国鉄二俣線(現在の天竜浜名湖線)の線路が図示されています。また、城西付近の市街地もこのころ形成されたことがわかります。そして、西山口の宮脇と成滝間に広がる稲門では、水田のほ場整備が行われたようです。
もう一つ、この間の大きな変化。二瀬川付近では逆川の流路が変えられ、現在の逆川橋が設置されているのがわかりますね。

 

昭和31年修正測量、昭和33年(1958年)発行掛川地区の地図
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次、4番目は、昭和31年修正測量、昭和33年(1958年)発行の2万5千分1です。文字表記が、現在のように左横書きに変わっています。
また行政的には、この間に大きな変化がありました。「昭和の大合併」による掛川市の誕生です。地図の範囲で見れば、昭和26年(1951年)に、西山口村、西南郷村が掛川町と対等合併し、掛川町になりました。そして昭和29年(1954年)、図上には表示されていませんが、東山口村、曽我村を編入し、掛川市制が施行されました。
そのほか目立つものでは、昭和26年にできた現在の国道1号も表示されています。

 

昭和48年(1973年)発行の掛川地区の地図、東海道新幹線や東名高速道路も入っている

急ぎましょう。5番目は、昭和48年(1973年)発行の5万分1です。昭和39年(1964年)10月1日開業した東海道新幹線、昭和44年(1969年)全線開通した東名高速道路など東西の大動脈が表示されました。また現在の中央1丁目から3丁目の第一・第二土地区画整理事業、上張土地区画整理事業が完了し、市街化が進んだことがわかります。

 

昭和57年(1982年)発行掛川地区の地図。国道北側の市街化が進んでいる

6番目は昭和57年(1982年)発行の5万分1です。昭和50(1975)年度に完了した下西郷土地区画整理事業、七日新田土地区画整理事業などで、国道北側の市街化が随分進みました。本文を入力してください。

 

平成3年(1991年)発行掛川地区の地図。宮脇から杉谷に移転した市立総合病院も表示されている

7番目は平成3年(1991年)発行の5万分1です。昭和58年(1983年)に北池の敷地を活用して建設した生涯学習センターや昭和59年(1984年)に宮脇から杉谷に移転した市立総合病院も表示されています。しかし私にとっては何といっても、昭和63年(1988年)3月13日に開業した新幹線掛川駅の茶色の表示が印象深いです。早いもので、駅の設置からすでに25年が過ぎたのですよ。

 

平成9年(1997年)発行掛川地区の地図。平成5年12月21日開業した東名掛川インターチェンジも載っている
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8番目は平成9年(1997年)発行の2万5千分1です。うーんやはり情報量が違うな。目立つところでは、平成5年12月21日開業した東名掛川インターチェンジ、平成8年5月に城内から現在地に移転した掛川市役所などでしょうか。
『掛川』の2万5千分1地図はこれを最後に、更新刊行されていません。国土地理院の方針として、平成20年10月以降、全国的に2万5千分1の紙地図は刊行せず、インターネット上で地図閲覧サービスとして公開していくことになったためです。

 

現在インターネットで閲覧できる最新の掛川市街地付近の地図

さて最後は、現在インターネットで閲覧できる最新の掛川市街地付近です。画面コピーしたら少し薄くなってしまいました。地図は誰でもすぐに見られますので、ご覧ください。
地理院地図(電子国土Web)
基本的には平成9年以降は改測等は行われていません(ユニーやジャスコのビルもまだ建ったままの表示になっています)し、大開発時代の終焉というところでしょうか、前と比べて内容的にあまり大きな変化は見られませんね。掛川東高が郊外に移転しています。

以上、地図で街の移り変わりをざらっと見てきました。これに大正9年(1920年)から5年ごとに行われている国勢調査結果などを絡めれば、当時の旧掛川町や周辺の村々と現在の掛川第一~第四地区や周辺地区の人口や公共施設の変遷、人口集中地区の変化と都市計画などなど、おもしろいテーマで一杯ですね。
これから到来する人口減少時代をへて、50年後、100年後の地形図『掛川』は、どのようになっていることでしょう。それが今回の題名の核心です(今回もテーマの投げかけだけで、ずるいですね(笑))。

さて、現在インターネットで見られる地図情報は、区域のつなぎ目が無く、ある程度縮尺も変更自在ですし、さらには新東名が開通翌日にはすでに表示されていたほどで時点修正も早く、良い面が一杯あります。しかし紙地図は、このように歴史的な変遷を見るのには不可欠です。新規の更新発行はされないということで残念なことです。
と思っていましたところ、10月24日、うれしいニュースがありました。この11月1日から、また新版の2万5千分1地図が刊行されることになったというのです。従来の3色刷2万5千分1地形図より詳細で新鮮な内容となるほか、これまでの3色に限定せず、多彩な色を使って地物を表現するとともに、地形に陰影を付けて立体感を得やすくなるとのこと。今のところ『掛川』の刊行時期は不明ですが、第1弾として、私が現在最もよく見る、大井川上流の『赤石岳』『塩見岳』『上河内岳』などが出るということで、楽しみです。(全く余談ですが、真冬に潮騒橋や小笠山の上から北を遠望したときに、比較的大きく見える真っ白に冠雪している山が、上河内岳と聖岳です)
なお、現在刊行されている2万5千分1、5万分1の地図は、市内の書店でも手に入りますし、過去の図版は、国土地理院に申し込んで謄本交付を受ける(つまり複写を売ってもらう)ことができます。価格は2万5千分1の場合、白黒が1枚500円、カラーは2,400円です。
地図の図歴や申し込み方法について、詳しくはこちらからどうぞ。→国土交通省 国土地理院 災害・防災情報
また、掛川市立中央図書館でも、『掛川』などのいくつかは閲覧することが可能です。窓口で尋ねてみてください。

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