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第580回「おらが駅 細谷駅」

2015年12月18日更新

掛川市下水整備課長 鈴木勉

掛川市西部の細谷には、天竜浜名湖線の駅が二つあります。「細谷駅」と「いこいの広場駅」で、市内には同線の駅は8つありますが、自治区単位に複数の駅があるところは他にはありません。

天竜浜名湖線は、掛川市の掛川駅から浜松市天竜区の天竜二俣駅を経て、湖西市の新所原駅に至る鉄道路線で、略して天浜線あるいは、てんはまとも呼ばれます。旧国鉄の二俣線を引き継いだ路線で、東海道本線から分岐して内陸部に入り、浜名湖の北岸を巡って再び東海道本線に合流しています。運営は沿線自治体などが出資する第三セクターの天竜浜名湖鉄道株式会社が行っており、路線延長は67.7キロメートル、駅数は39で、全線が単線、非電化です。また、36の建造物と施設が国の登録有形文化財に登録されていて、昭和の鉄道遺産が随所で見ることができるなど、同社のホームページのキャッチコピーのとおり「日本の原風景に出逢う旅。」が満喫できる鉄道です

さて、細谷駅(ほそやえき)は、掛川市細谷にある天浜線の駅で、昭和31年5月10日国鉄二俣線の駅として開業し、昭和62年3月15日二俣線が第三セクター鉄道に転換したことにより、天竜浜名湖鉄道の駅になりました。起点の掛川駅からは6番目の駅で営業キロは6.0キロメートル、上り側のいこいの広場駅までは0.5キロメートル、下り側の原谷駅までは1.9キロメートルの距離で、平成25年度の1日の乗車人員は36人(降車客含まず)とあります。最近まではノスタルジックな木造の待合室がありましたが、平成27年7月にモダンな待合室にリニューアルしたばかりの田園地帯に囲まれた無人駅です。近隣には有名な吉岡バラ団地、サカタのタネの園芸場や前方後円墳を有する吉岡古墳、静岡よみうりカントリークラブなどが存在します。群馬県太田市にある東武伊勢崎線に同名の駅がありますが、こちらは昭和2年10月1日の開業で、平成26年度の1日平均乗降人員が2,536人もありますので、歴史も規模もはるかに大きな駅です。

細谷駅のホーム。周りに田園風景が広がっている

夕日が細谷駅の建物に当たっている写真

細谷駅 最近まであったノスタルジックな木造待合室夕日が、映えました

新しい細谷駅のホーム。木造待合室跡地にリニューアルした待合室が建っている写真

リニューアルされた待合室の写真。モダンなプレハブの待合室。

平成27年7月にリニューアルしたモダンな待合室

一方、いこいの広場駅(いこいのひろばえき)も掛川市細谷にあり、こちらは昭和63年3月13日天竜浜名湖鉄道の駅として開業し、起点の掛川駅からは5番目の駅で営業キロは5.5キロメートル、上り側の桜木駅までは1.5キロメートルの距離で、平成25年度の1日の乗車人員は58人(降車客含まず)とあります。近隣には駅名になっている「いこいの広場」があり、野球場や多目的グラウンドがあります。また、その近くには静岡県総合教育センター「あすなろ」があり、先生方が研修のために訪れます。

ところで、この隣接する二つの駅の開業にあっては大きな違いがあります。いこいの広場駅は天竜浜名湖鉄道が発足した時に、天竜浜名湖鉄道により設置された駅ですが、細谷駅は地元の請願により、建設費用を地元が負担して設置された駅です。細谷駅設置のいきさつが詳しく書かれているものがありますので、ご紹介します。

原谷郷土誌「はらや」 平成23年11月 掛川市原谷地域生涯学習センター発行より
細谷の人たちは、列車に乗るのに原谷駅か桜木駅まで2から4キロメートル歩かねばなりませんでした。そこで交通不便の解消のため細谷地区内に停車場を設置する請願運動を起こしました。これに対し国鉄では、駅設置の費用の全額を地元で負担するなら設置してもよいと回答をしました。細谷区では区の役員の方々が中心となり、吉岡地区、家代地区の人々にも相談して、建設費用の90万円は3地区で「利用度に応じて、応分の負担をする」ことで合意をみて建設工事に取り掛かりました。細谷区では建設費用を区有財産の山林を売却して捻出しました。吉岡、家代地区からの応分の負担分については、どれほどの協力が得られたかは定かではありません。工事は順調に進み念願の「おらが駅・細谷駅」は昭和31年5月10日完成開業しました。当日は区民総出のお祝いとなり祝い餅も投げられ、酒も振舞われ、細谷区はお祭り一色に包まれました。

新幹線掛川駅が、昭和52年から10年以上に及ぶ誘致運動の末、建設費用の一部を市民募金による地元で負担する「請願駅」として設置されたことは有名ですが、同じ市内の細谷駅ではこれより20年以上も前にすでに行われていました。

細谷の人たちは、ずいぶん前から地域内のこの二つの駅の掃除や線路周辺の草刈を自主的に行っています。シニアクラブの皆さんは、駅の掃除を毎月1回、駅周辺の草刈は年3、4回も行っているとのことです。自治会では、地域内約1.4キロメートルの線路両側の草刈を毎年6月と9月に2回行っています。掛川市内ではほとんどの自治会で河川などの草刈を行っていますが、鉄道敷地内の草刈を行っているところはあまりありません。細谷区では200戸に満たない区民により、原野谷川の堤防の草刈を行う日に、天浜線周辺の草刈も行います。夏場の暑い時期にもかかわらず、毎年やり続けているのは、前述の「おらが駅・細谷駅」設置時のことを忘れずに現在まで引き継いできたことや、地域の環境美化と線路の保全を通して少しでも天浜線の経営に協力したいという思いからではないでしょうか。

かつては、廃止が検討されたこともありましたが、沿線地域にとっては身近で欠かすことのできない公共交通機関である天浜線を将来に渡って存続してもらうためにも、細谷の人たちは今後も天浜線への支援を続けていくことでしょう。

草刈り前の線路の写真。線路脇に雑草が生い茂っている。

草刈り後の線路の写真。線路脇の雑草が綺麗に刈り取られて、線路が良く見える。

草刈り前後の線路 右側の道は田園滑走路と呼ばれている約2キロメートルの一直線道路

田園地帯の中にある踏切の写真
ドラマのロケ地になった細谷駅北の踏切

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