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第663回 リニア中央新幹線と掛川の水利用

2017年5月26日更新

掛川市水道部長 山下 甫

リニア中央新幹線は2027年の品川から名古屋間の開業に向け、すでに2014年から静岡県以外では建設工事が進んでいる。静岡県内の工事区間10.7キロメートルは、南アルプストンネル延長Lは25キロメートルの一部となり、山岳地帯の地下350メートルから1,400メートルを通過する。この地域はユネスコエコパークの登録を目指しており、大井川の源流部に当たり貴重な生態系を維持している。
掛川市の水環境について考えるに、農業用水、生活用水(飲料水)、工業用水のどれをとっても、大井川からの用水供給を受け、大いなる恩恵にあずかっている。農地では全青地農地のうち50パーセント以上が受益地となっている。生活用水では上水道の配水量の約90パーセントは大井川の水である。また、工業用水として供給している水は大井川からの水である。もしこれらの用水の供給が止まってしまったら、掛川市のみならず同様の水環境にある東遠地域の将来はどうなてしまうのだろうか。

各用水の概要 

  1. 上水道 大井川広域水道企業団
    構成団体:静岡県、7市(島田市、焼津市、藤枝市、御前崎市、菊川市、牧之原市、掛川市)
    給水量
    全体計画 5.8立方メートル/秒 466,000立方メートル/日
    現在 2.0立方メートル/秒 160,700立方メートル/日
    掛川市受水量 46,000立方メートル/日(0.53立方メートル/秒相当)
  2. 農業用水(掛川市内農地面積 5,380ヘクタール うち青地農地 4,411ヘクタール)
    1. 大井川右岸土地改良区
      関係市:4市(菊川市、御前崎市、袋井市、掛川市)
      受益面積:3,512ヘクタール(うち掛川市、1,903ヘクタール)
      水利権水量:7.321から3.067立方メートル/秒(年間5段階で変動)
    2. 牧之原畑地総合整備土地改良区
      関係市:5市(島田市、牧之原市、菊川市、御前崎市、掛川市)
      受益面積:5,145ヘクタール(うち掛川市 446ヘクタール)
      水利権水量:3.045から0.811立方メートル/秒(年間4段階で変動)
  3. 工業用水 東遠工業用水道企業団
    構成団体:4市(牧之原市、菊川市、御前崎市、掛川市)
    契約事業所数:16社
    水利権水量:0.097立方メートル/秒(契約水量 7,455立方メートル/日)

これらの用水は、いづれも大井川の河川本流並びに中部電力の発電用管路からの放流水を、島田市川口の川口取水口で取水している。水源としては、上流部にあるいくつかのダムの貯留水によっている。主なダムとしては下流より長島ダム、井川ダム、畑薙第一ダム等があるが、これらのダムは年間を通して満水となることが少ない。また、例年貯水量の減少により対策が必要となっており、利水者の互助の精神による節水により、水源減少に対応している。

節水の実績 過去10年間

  1. 平成20年2月23日から平成20年3月10日 自主節水対策(節水率)上水:工水:農水は5パーセント:10パーセント:10パーセント
    平成20年3月10日から平成20年4月11日 第1次節水対策(節水率)上水:工水:農水は10パーセント:20パーセント:20パーセント
    平成20年4月11日から平成20年4月15日 自主節水対策(52日間)
  2. 平成25年6月14日から平成25年7月3日 自主節水対策(20日間)
  3. 平成25年8月9日から平成25年8月20日 自主節水対策
    平成25年8月20日から平成25年9月17日 第1次節水対策(40日間)
  4. 平成28年8月30日から平成28年9月16日 自主節水対策(18日間)
  5. 平成28年3月15日から平成29年4月18日 自主節水対策(35日間)

大井川の水源不足は、延長168キロメートル、標高差3,000メートル余りという地形上急勾配であることにもよるが、戦後の「大井川総合開発計画」に端を発した、電源開発計画によるところが大きい。1960年代から半世紀にわたり続いた「水返せ運動」により、かろうじて河川維持流量を確保しつつ、流域利水者の努力により水の活用をしている状況にある。

水返せ運動による田代ダム放流量

半世紀に及ぶ「水返せ運動」の結果、2006年から田代ダムからの環境維持流量として次の流量が放流されることとなった。
12月6日から3月19日 0.43立方メートル/秒 3月20日から 4月30日 0.98立方メートル/秒
5月1日から 8月31日 1.49立方メートル/秒 9月1日から12月5日 1.08立方メートル/秒

以上のような河川状況の中で、リニア中央新幹線による河川水量の減少は、JRによると木賊(とくさ)堰(えん)堤(てい)上流で2立方メートル/秒と想定されている。この水量は同地点の年間平均流量の約17パーセントに相当し河川環境に及ぼす影響は計り知れない。また、これまで記載の各種水量と比較いただけば、いかに大きな水量か想像いただけると思う。
これに対しJRはトンネル内の湧水の内1.3立方メートル/秒を、導水路を作ることにより下流約11キロメートルに放流し、残りの0.7立方メートル/秒を必要に応じてポンプアップすることにより、対応すると言っている。これでは現状の大井川の河川状況からしても、環境維持を図れるとは思えない。さらに導水路放流口上流部の11キロメートルについての対策がとられていない。また、トンネル湧水はすべて東方向(山梨県方向)に流下する前提の対策と思われるが、地下数百メートルの地層、地下水の流水方向にも確実な検証はされていない。また、水質の変化が起こった場合の対応も明示されていない。

かつて掛川市においても、2000年にトンネル工事によると思われる湧水の枯渇を経験している。新東名高速道路建設に際し、東山「阿波々の麗水」や倉真「松葉の滝」などで湧水の減少が発生し、中日本高速道路が止水工事を実施したが、湧水が戻ることはなく、現在も水量減による影響に対し補償工事等を実施している。
このような、不確定要素、不安要素の多い中で、もしものための対応策の検討を、もう一度する必要があるのではないか?また、JRが対応してくれるにしても、未来永劫、水を戻すことが可能なのだろうか?
歴史を振り返り、今何がほんとに必要か、みんなで考える時だと思う。

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