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第512回 健康と命の砦「中東遠総合医療センター」への期待

2014年11月18日更新

掛川市健康福祉部付参事 中東遠総合医療センター管理課長 石野敏也

開院までの道のり

中東遠総合医療センターを北側上空から撮影した航空写真。
北側上空から空撮

平成25年5月1日、掛川、袋井両市民をはじめ中東遠地域の皆様に、将来にわたり質の高い医療を提供することを目的に「中東遠総合医療センター」が開院しました。
本プロジェクトは、厳しさを増す地方都市の地域医療再生モデルとして、今後の国、県の医療施策の方向性を模索する先駆的取り組みでもあります。
統合の契機は、市町村合併後の平成18年に設置された「市立病院のあり方検討会」でした。「医師不足」に端を発した医療機能の低下、経営環境の悪化といった厳しい状況下で、掛川市、袋井市ともに老朽化した病院の建て替えという大きな問題に直面した中で検討が始まりました。

近隣市町との病院再編も視野に入れた議論の末、平成19年12月「掛川市・袋井市新病院建設協議会」が設置され、両病院統合への動きが本格的に始動することになりました。

 

協議の主な争点は、「市民理解」と「建設場所」でした。
協議開始直後は、「病院が遠くなる。」「受診しにくくなるのでは?」「医師不足は解消できるのか?」「お金の無駄使いでは?」といった不安や疑問を感じる市民が非常に多かったのではないでしょうか?自分自身を含め、ご家族の命や健康に対する関心の高さ、市立病院の存在の大きさをあらためて思索したところです。

協議会の会長だった佐古伊康先生(現しずおか健康長寿財団理事長:京都大学医学部名誉教授)は、「医師の疲弊は限界であり、既に地域医療の崩壊が始まっている。限られた医療資源を集約することが最重要。医師が2人体制と4人体制では、医療の質は何倍にもなる。」とおっしゃっていました。

また、当時、浜松医科大学学長の寺尾先生(一昨年ご逝去。心からご冥福をお祈り申し上げます。)や名古屋大学医学部附属病院長の松尾先生は「医療の質を表す大きな要素のひとつは救命救急体制の充実である。一刻を争う脳卒中や心筋梗塞に対し、365日24時間体制でいかに早く治療の開始ができるかが医療の質を図る尺度である。」、「このプロジェクトは、地域医療の再生モデルで国家的施策。何としても成功させなければならない。」と、成功に導くため強力なリーダーシップを発揮されました。

医療関係者の生の声とすべての協議を市民の皆様をはじめ新聞、テレビなどに完全公開し議論を尽くした結果、統合の必要性が理解され、建設場所についても最終的に現在位置に決着し、平成21年1月8日「新病院建設に関する協定書」の調印に至ったわけであります。

当初、全国からいただく声は「市民病院の統合は無理でしょう。」「総論賛成、各論反対。出来るわけがない。」と、冷ややかな反応だったわけでありますが、今では地域医療の再生モデルとして、北は小樽、南は鹿児島まで全国各地から多くの視察、問い合わせをいただいている状況です。

夕闇の中、電気がともる中東遠総合医療センターの様子。
夕闇に浮かぶ医療センター

中東遠総合医療センターの今

開院直後は、皆様に多大なご不便をお掛けし、またご心配をいただきましたが、既に1年半余が経過し、現在は順調に稼働している状況です。
平成25年度の入院患者数は8月から、外来患者数は11月から旧両病院の合計数を上回る実績となりました。
平成26年度は、入院・外来いずれの患者数も前年度を上回っている状況です。

一日当たり入院患者数のグラフ(縦軸に一日当たりの入院患者の人数、横軸に月をとり、平成25年度を青、平成26年度をピンク、平成24年度旧2病院計を緑の折れ線グラフで表したもの。)

一日当たり外来患者数(縦軸に一日当たりの外来患者の人数、横軸に月をとり、平成25年度を青、平成26年度をピンク、平成24年度旧2病院計を緑の折れ線グラフで表したもの。)

特に、救急医療分野に関しては、救急車搬送件数が県内2番目に多く、時間外受診者数も3番目に多い数となっております。
一刻を争う病気に対し「助かる命を何としても救いたい!」と、医師をはじめ職員一同、日夜懸命に働いていることをご理解願えればと思います。

救急医療に関する患者数

項目 平成24年度(旧病院) 平成25年度 県内順位
掛川 袋井 中東遠
救急車搬送患者数(人) 2,813 2,114 4,927 5,431 2位
時間外受診者数(人) 8,448 7,502 15,950 16,912 3位

統合後のこれら患者数を見ても、確実に医療提供体制は向上しており、今回のプロジェクトの成果は明らかです。
国、県をはじめ全国の医療関係者も地域医療再生の考え方の一つとして、当院の成果に注目しています。
統合の成果を大きく5つにまとめてみました。

ドクターヘリがヘリポートから飛び立つ様子。

統合の成果について、1から5項目にまとめたもの。

統合の成果

  1. 開院後の診断実績は、入院患者数・外来患者数・救急車搬送件数・救急センター受診者数とも、旧両病院の実績を上回っている。
  2. 開院後、最重要課題の一つであった医師数が増加した。(平成25年1月開院前87人だったのが、平成25年5月開院時には90人、平成26年7月には105人に増加。)
  3. 限りある医療資源の集約により医療の質は確実に向上し、地域医療の崩壊は回避され、さらに今後の成長が期待されている。
  4. 救急医療の質の向上(断らない救急)は、市民の安心な暮らしに大きく寄与している。
  5. 災害時医療の見直しが図られ、地域全体の防災力が向上した。

両市民の選択により統合・誕生した「中東遠総合医療センター」は、まだまだ至らない部分も数多く存在しているとは思いますが、引き続き、医療体制の充実を図り、市民の安全・安心な暮らし「健康医療日本一」に大きく寄与していきたいと思います。

病院運営と協働

ここ最近、当院が実に多くの方々に支えられていることをあらためて実感しています。
何の見返りも求めず病院の役に立ちたいと、善意で活動くださっている100人を超すボランティアの皆様。夏の暑い最中、草取りをしてくださる市民の皆様。開院したばかりで不足している絵本や車イスなどを寄付してくださる皆様。いつも医師や看護師に温かい言葉を掛けてくださる皆様。
本当に感謝の言葉しか見当たりません。

医療という分野における協働は難しいかもしれませんが、医療を支える病院運営に多くの方々がさまざまな形で病院職員とともに協働してくださっています。ある意味、病院は協働のあるべき姿を間近に見つけられる場所かもしれません。

ボランティアの男性が絵を壁に展示している様子。
ボランティアさんによる展示

寄付の絵本や図書を手渡す女性と受け取る男性の様子。
絵本・図書の寄付をいただきました

「協働」の「働」の字は、「共同」や「協同」のように「同じ」=(イコール)「一緒に」という文字は使っていません。「働」の字は「国字」と言って、日本独自の漢字だそうです。では、なぜ「協働」は「働く」という字を使うのでしょうか?
人は、昔から社会の中で役割を持って生きており、「人が動く」、すなわち「働く」=(イコール)「社会の中で役割を持つ」と言う意味を持っているとも言われています。それぞれが、それぞれの役割を持ちつつ力を合わせて事に当たる。これが「協働」がという文字に込められた意味ではないかと感じられます。

少し脱線しましたが、皆様の多くの善意とご協力を得ながら当院職員は皆、使命感と役割を持って患者さんと真摯に向き合い、少しでも病気が改善するよう、不断の努力を重ねてまいります。

引き続き、「中東遠総合医療センター」が素晴らしい病院なるよう、市民の皆様も一緒に当院を育てていただけたら素晴らしいことだと考えています。

たくさんの人が草取りをしている様子。
市民、NPOによる草取り

車椅子寄贈式で、寄付いただいた車椅子を前列に並べ、医師や看護師が並ぶ様子。
車イスの寄付をいただきました

市民医療講座でスクリーンを見ながら説明する医師と聞き入る参加者達の様子。
いつも盛況な市民医療講座

 

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