総合トップ記事第637回 遠州灘沿岸の斜め海岸林

第637回 遠州灘沿岸の斜め海岸林

2016年12月9日更新

掛川市農林課長 高柳和正

「斜め海岸林」とは、掛川市から御前崎市の海岸で、海岸線に対し斜めに造成されている海岸林のことです。幕末以降100年以上もの年月を掛け、地域住民が造成した壮大な海岸林は、国内唯一の大変貴重な景観です。しかし、あまりに規模が大きく、地上からは分かり難いため、今まで広く一般には知られてきませんでした。
当地域の沿岸約12キロメートル区間では、海岸林が海岸線に対し斜め(5度から20度)に造成され、国内唯一の大変珍しい景観となっています。江戸時代末期以降、100年以上もの年月を掛けて多層的に造成されてきた海岸林の総延長は、現在残っているものだけで50キロメートル以上に及び、海岸林の間には畑が拓かれ、サツマイモ、ニンジン等が栽培されています。

当地域では、海岸線が東南東方向に湾曲しているため、激しい偏西風「遠州の空っ風」が海側から吹きつけ、また砂の粒径も小さいため、昔から多くの飛砂に苦しめられてきました。
そこで地域の人達は、江戸時代末期から斜めに海岸林を設けることで、強風や飛砂を海側に受け流し、環境が安定した後背地を農地として利用してきました。
造成は強風と飛砂を巧みに利用した方法で、まず堆砂垣により飛砂を砂堤として堆積させると、順次、南東方向に飛砂を誘導しながら延長していき、最終的にクロマツ等を植えて固定化しました。
自然の猛威を逆手に取り、防災と開墾を一体的に行うこの造成技術は地域独自のものであり、全国の沿岸を見ても、このような斜め海岸林は他に存在しないと聞いています。
当地より西側の地域では、飛砂が発生し難いため、逆に砂堤を形成することができず、過去に津波や高潮の被害が発生した記録が残されています。斜め海岸林は防潮堤としての役割も大きいといえます。

現在、この海岸林の多くは保安林に指定され、県や市、海岸防災林保護組合等、多くの地域の方の手により維持管理が継続的に行われていますが、残念ながら近年の海岸線の後退や、台風の大型化に伴う塩害の発生及び松食い虫被害によるクロマツなどの枯損が進んでいます。防災的にも重要なこの斜め海岸林を保全するため、関係者が一丸となって今後も取り組んで参ります。

掛川市浜川新田周辺を空から撮影した写真。手前に海岸、中央に住宅、後方に山が見える。
掛川市浜川新田周辺

手前に一面に広がるサツマイモ畑、後方には森林が見える写真。
砂地農地のサツマイモ畑

木皿の上にイモ切干が4つのっている写真。
イモ切干

参照:静岡県中遠農林事務所・治山課作成
「遠州灘沿岸の斜め海岸林(平成22年12月1日)」

海岸で粗朶を設置する作業をしている大勢の住民たちの様子。
粗朶(そだ)を設置する浜区住民ら

今年11月27日に大東・大須賀海岸沿いの12の自治区で組織する「掛川市海岸防災林保護組合」(北川文男組合長)が、遠州灘海岸の砂浜保全を目的に堆砂垣(たいさがき)の設置作業を行いました。

今年は海岸線1,600メートルを12区間に分けて実施。この日は、各区住民が早朝から担当エリアに集まり作業を行いました。前日までに打ち込んだ高さ1メートルの竹の支柱へ、竹のすのこを横竹と針金でていねいに固定したほか、各区で用意したウバメガシやユズリハなどの粗朶を、海風が吹いてくる方向に向けて敷き詰めていきました。

浜区では約100人が参集。組ごとに担当エリアを設けて作業に汗を流し、2時間ほどの作業で約200メートルの堆砂垣を完成させました。

 

写真中央に人が集まり作業をしている様子が写った海岸の写真。手前に砂山、後方に海が見える。

このページと
関連性の高いページ