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第709回 葛まるごと利活用~掛川市の取り組み~

2018年1月26日更新

掛川市産業労働政策課長 戸塚美樹

掛川市の伝統産業「葛布(かっぷ)」の振興を図るため、葛の魅力や利用法などを調査・研究する「葛利活用委員会」を設け、さまざまな取り組みをスタートしましたので、ご紹介します。

1「世のため、人のため」に役立ってきた葛

葛は、マメ科のツル性植物で日本では沖縄を除く全国各地の山野はいうまでもなく、都市部においても、空き地や道路沿い、河川敷などに自生しています。秋の七草の一つに挙げられ、夏から秋にかけて花が咲き、風にそよいで葉裏を白く見せるさまを風情あるものとしていました。そればかりか、万葉集の昔から詩歌にも詠まれ、人々の精神に潤いと安らぎをもたらしたり、薬草として、葉は牛馬の飼料に、根からは葛粉を採って食用にも利用され、さらに茎の繊維で紙や布を作ったり、力強くツルを這わせ地下深く根を下ろす習性を土壌強化にと「世のため、人のため」に役立ってきた歴史があります。

2 葛布の歴史とかけがわ

葛布は、沖縄の芭蕉布(ばしょうふ)、東北の科布(しなふ)と並び日本三大古布に数えられています。
掛川に葛布の製法が生まれたのは、その昔、掛川西方の山中にある滝の側で庵を結んでいた行者が、滝水に打たれさらされている葛蔓(くずお)を見つけ、それが繊維として使用できると考えて、信徒の老婆に葛の繊維を採る方法を教えたことからと言い伝えられています。
古くは鎌倉時代からで、当時は、蹴鞠(けまり)の奴袴(さしきぬ)に用いられ、江戸時代に入り東海道の掛川宿の繁栄と共に葛布も栄え、広く世間に知られ裃地(かみしもじ)、乗馬袴地、合羽地などに使用され、また参勤交代の諸大名の土産品としても大変珍重されていました。ところが、明治維新による武家階級の転落、生活様式の急転により壊滅的な打撃を受け問屋は大半が転業しました。
また、明治30年頃より壁紙としてアメリカへ輸出したところ、大変評判がよく最高級の壁紙として喜ばれました。戦後になるとコストの安い韓国産が出回り衰退。最盛期には、40軒から50軒あった手織葛布商が、今では2軒にまで減少しています

(「葛布の里掛川」:掛川手織葛布組合発行から一部引用)

葛の葉っぱ

葛の茎を集めた物
葛つぐり

葛の茎葉を使って作った壁掛け
葛布製品

 

3 掛川市葛利活用委員会の取り組み

掛川市葛利活用委員会の事業は、葛の一体的な利用になりますので、茎葉の利用、根の利用、成分の利用、花の利用、原材料供給の5つに分かれます。
茎葉の利用では、葛布の振興としてマーケティング基礎調査や葛布づくり体験を行っています。工業製品では、葛の機能性成分や強靱な繊維を利用した畳ボードやダンボールの試作品を製造し、製品化を検討しています。畜産飼料では、葛を飼料として食べた家畜の比較研究、そのブランド化を検討しています。
根の利用では、葛菓子等に掛川産の葛粉の供給ができるように検討しています。
成分の利用では、市内製薬企業との連携によるサプリメントの研究や、葉のエキスを利用した石鹸の販売を行っています。
花の利用では、葛花酵母の抽出を研究機関に依頼して、分離した酵母を使用した新商品の開発を検討しています。
原材料の供給では、葛の試験栽培を行い、栽培手法の確立・マニュアル化を検討しています。

掛川氏葛利活用委員会 概要

掛川市葛利活用委員会 概要

茎葉の利用

葛布の振興

マーケティング基礎調査、葛布づくり体験

工業製品

畳やダンボールの試作品製造・製品化

畜產飼料

家畜の比較研究、ブランド化

根の利用

葛菓子等

掛川産葛粉の供給

成分の利用

サプリメント

市内製薬企業等との連携による研究

葉のエキス

エキスを利用した石鹸の販売

花の利用

葛花酵母

研究機関による酵母分離

原材料供給

試験状培

栽培手法の確立・マニュアル化

次に、取組の一例を紹介します。まず、「葛布づくり体験ツアー」についてです。若者から葛布づくりへの興味を引き出して、県内外の大学と連携して体験を通じて若者目線の事業提案を求めます。
ツアーの内容は3日間を通して、葛から葛布ができるまでの流れや作り方を一通り学びました。葛の採集から始まり、芯抜き、つぐり作り、機織りを行い、テーブルセンターをつくりました。定員5人の体験ツアーを2回行い、合計で9人、うち大学生は6人の参加がありました。

参加者からは、次のような感想をいただきました。
「実際に体験したからこそ分かる大変さと難しさに気付けたのは印象的でした。」
「素材の勉強や物作りの過程を知ることで、新たなデザイン提案のヒントが得られると思う。」
「地場産業に興味があり、昔は賑わっていた葛布が近代化の流れでだんだん特に若者などに忘れさられる存在となっているが、日本の個性として今後も残していかないといけない思う。」
来年度以降も、県内外の大学と連携して、広い範囲で若者の参加を呼びかけるとともに、後継者育成につながる支援事業を検討していきます。

真ん中に道。その両側に生えている葛を大人の人が集めている
葛の採取

葛の茎を川で芯抜きをしている様子
芯抜き

織機を使って葛布降りをしている
葛布織り体験

 

次に、「粉砕した葛を使った工業製品の製造」についてです。葛から作られる葛布には抗菌効果や消臭効果があり、また、葛の丈夫な繊維に注目してそれらを利用した工業製品の開発を進めています。現在は、葛の工業製品の試作試験を行っており、材料となる粉砕葛の大きさ等の課題もありますが、さまざまな企業の協力をいただき商品化に向けて研究を重ねていきます。

次に、「葛の試験栽培」についてです。葛の茎葉や葛花、葛根の安定的な収穫・供給につなげるため、市内の耕作放棄地解消の一助及び葛の食材としての安全な利用のために、試験栽培を行い、栽培条件や効率的な栽培方法、収穫量、品質、必要経費などを明らかにするとともに、育成・収穫作業のマニュアル化を図ります。
6月に小笠高校の生徒の協力のもと、試験圃場にて葛の苗木108本を定植しましたが、生育状況が悪く2週間で20パーセントまで減少したことから、再定植を行う等約60パーセントの活着率までになりました。今年度は、茎や葉の長さ・重量を計測して生育状況の確認を行い、来年度以降は、根の長さ・重量の計測や葛根の生育についても調査を行います。

畑に葛の苗を沢山の高校生が植え込んでいる
葛の苗を植え込む小笠高校の生徒ら

葛の圃場。黄緑色の葉っぱが沢山ある
葛の圃場

 

4 終わりに

本事業は、まだ緒に就いたばかりであり息の長い取り組みとなっていくことと思います。これらの事業が耕作放棄地の解消や新たな産業の創出につながり、雇用の場を生み出し、併せて葛布の文化的価値や葛の利活用を市内外に発信することで、掛川市を広くPRし、誘客や消費の拡大を図り、地域の活性化につなげていきたいと考えています。